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2003年4月29日 新潟日報 掲載

あーとぴっくす
 

白木ゆり新作展
(4月18日〜29日 楓画廊)

田代早苗(俳人)

 作品は一貫して「音」をテーマにしている、と作家は言う。一昨年行われた白木ゆりの個展は、例えていうならバイオリンの独奏を銅版に彫り込んでいるかのような印象だった。
 時として激しく、ある時は静かに優しく、柔らかく、紙の上を黒い線がはしってゆく。実際には普段の生活空間の中で風の音や鳥の声、道を行き来する人やクルマの気配から転換されたものなのだろう。だが繊細な作品の全体に流れる凛とした清潔感は、あたかも作家を取り巻く世界の、その美しい部分だけが彼女の感覚を濾過して表現されているようにみえた。
 しかし、今回の個展はそこにより豊かさと逞しさが加えられたように思える。
 特に「Sound-80」=写真=と題された作品はまるでオーケストラの演奏が銅版画に転換されているかのようだ。画面全体を彩る彼女独特の線は主旋律、黒い塊やあたかも墨彩画のごとく流れる面はバスの低音、金管楽器のファンファーレといったふうに。それぞれが浮き上がることなく絡まり合い、重なり合いながら全体としてのダイナミックな運動感が生み出されていく。前回の作品より、世界をもっと大きく、深く受けとめているように思えてくるのだ。
 今回発表された鉛筆のドローイングは作家の生身の肉体そのものを感じさせる。耳や皮膚で受けとめた音を、指で、腕の筋肉を使って表現してゆく、その過程がシンプルな線の中から滲み出してくるようだ。