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2003年7月16日 新潟日報 掲載

越後妻有「大地の芸術祭」開幕を前に
 

自然とアート 出会い体感
目立つ参加性の高さ

小川弘幸(文化現場代表)

 「大地の芸術祭」の楽しみ方はさまざまだ。参加の仕方も多様に開かれている。しかしその感動は、現地で体感することを抜きには語れない。
 2回目となる今年は、先回にも増して参加性の高いプロジェクトが目立つ企画内容となっている。私が出向いた6月下旬にも、作家や住民、サポーターらが作品制作に励む「協働」の現場がそこかしこで見られた。
 中魚川西町では家々にある使い古しの白い布などに平和の願いを込めて縫い合わせる「ホワイトプロジェクト」が進行中で、これはやがて約8千枚を糸で結び、中空をブリッジ状につなぐというもの。新田和成氏が広島平和記念公園から始めたプロジェクト。
 同津南町の歴史民俗資料館の敷地では、磯部聡氏が額に汗を浮かべながら土と格闘していた。縄文時代の土質を意識して配合した土を用い、集落の人々からとってもらった手形を野焼きして陶板を作り、インスタレーションを行うという。主役は「船山集落の人々であり、土地であり、古くからの営み」と同氏は手を休めることなく語ってくれた。
 同中里村では、前回信濃川の昔の川筋を約600本の黄色い杭によって再現し注目を集めた磯辺行久氏が、今回は信濃川の川面の痕跡をランドアートとする試みに挑む。太古から続く自然と人のあり方について思いを巡らせるものとなるだろう。
 十日町市、東頸松代町、同松之山町では、建築プロジェクトとして進められてきた各ステージが開館することも大きな話題だ。それぞれ異なるテーマをもち、地域の魅力をハードとソフトの両面から発信していくコミュニティー拠点。そのひとつ「越後松之山『森の学校』キョロロ」を地元の人々とともに見学した。自然と科学とアートの新しい出会いがリアルに体感される作りになっている。展望台からの眺望もすばらしい。
 松代町の駅を降りると、カバコフの「棚田」など前回から設置されている作品を遠景に、草間彌生氏の巨大な花のオブジェが迎えてくれる。圧倒的な存在感とみなぎる生命観。
 同町あざみ平にある廃校を本社に発足する「明後日新聞社文化事業部」は、いたってユニークなプロジェクト。社主でもある日比野克彦氏の作品展会場となるほか、明後日新聞も発行される。外壁を覆うように地元産の縄が張りめぐらされ、集落の人々が植えた朝顔が屋根をめざして日々、つるを伸ばす。
 商店街をカメラ片手に歩いていたら住民に声をかけられた。庭先で宴会をしているので寄っていきなさいと。誘われるがままに輪に加わると、そこには松代町商店街活性化プロジェクトに参加する大学の先生や学生もいて、楽しい語らいのひとときを過ごすことができた。
 20日からの妻有体験に向けて、どんな出会いが待ち受けているのか、期待に胸が高鳴る下見行路となった。