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2003年7月21日 新潟日報 掲載

あ−とぴっくす
 

箱もの7人展
時間の感覚を吸い込む「空」
(7月18日〜7月26日 楓画廊)

大倉宏(美術評論家)

上段
長沢明「キンチョールと赤」

下段
藤田夢香「光の住みか…」

 平らなモノに囲われた空(くう)。
 箱。
 絵や版画を画廊で発表した人たちが、その画廊で自作の箱をならべている。光を迎える(藤田夢香、伊藤希代子)、蝶番で閉じる(杉原伸子、長沢明)、風景やオブジェを入れる(大矢雅章、コイズミアヤ、猪爪彦一)。不思議な箱たちの会合。箱を構成する平面が画家たちの絵と同じ表情をもつのが面白い。絵が映像と違うのは、それが平らな「モノ」である点。大きさ、表面のでこぼこ、角度やあたる光で違って見えること。絵がモノであることへのセンスが、そのままモノである箱(やその中のオブジェ)にも映っている。
 平面がモノとしての表情を深めるとき、平面に囲われた空は場所に近づく。からっぽが時間に、匂いに、音に、風に、気配にみたされていく。
 長沢明の箱のそばで、しばらくくつろいだ。箱の板の汚れや傷み具合が、ゆるやかな広がりと濃い時間の感覚を吸い込んだ彼の絵にそっくり。なかには素晴らしく錆びたブリキの地面に、小指ほどの木彫りのトラが、チョークで引かれた白線のロープの上を大胆に、慎重に歩いている。
 いつしかその場所に誘いこまれていく。トラが歩くブリキの地面から、錆びた雨の匂いが。遠い町の喧噪、しっとりとぬくんだ影の体温が。
 ちいさな空が、無限の湯船となって、画廊にくつろぐ私を浮かべる。