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2003年7月30日 新潟日報 掲載

あ−とぴっくす
 

観る者によって違う物語に
さいとうようこ展
(7月31日〜8月5日 羊画廊)

田代早苗(俳人)

「天使」

 「“星の王子さま”が不時着した砂漠を思わせます」と作家が語る浜辺で、やみくもに拾い集めた流木、木の実、石。それに家の中の「拾い物」で構成された生き物たち。流木で作品を作る作家は、いなそうで案外いたりするものだけれど、さいとうようこ作品の独自性は「物語の被(かぶ)せ具合」なのではないかな、と思う。
 例えば「天使」=写真=という作品。彩色は地の木目がうっすらと浮いてくるほどのサジ加減、顔の部分は粘土で微かに作ってあるものの目鼻立ちが描かれているわけでもなく、翼は流木のかたちそのまま風に揺れるような姿で静止している。
 作家には作家の天使の物語があるのだろう。しかし観る者は観る者で、また違った天使の物語を、あるいは全く別の、マフラーをなびかせたサーファーの物語を楽しく思い描きながら作品を観るかもしれない。
 さいとう作品の面白さは、そんな観る者の物語もやんわり受けとめてくれるところにあるのではないか。
 作家が造り上げた世界を素材たる流木に押しつけることもなく、観る者にそれを押しつけることもない。一歩間違えば作品の弱さになりかねない危うさだが、意外にさいとう作品はしなやかで逞しい。流木の野生が生きている。
 流木で夏の虫を作るワークショップも開催されるそうだ。どんな物語が参加者の手で紡ぎだされてゆくのだろうか。