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2003年10月13日 新潟日報 掲載

あーとぴっくす
 

ぜひ見て「現代の隠者」の作
石井一男展
(10月12日〜10月20日 新潟絵屋)

旗野秀人(新潟絵屋運営委員)

「女神」 グワッシュ 22.8×15.8cm

 昨年の6月、縁あって神戸市のギャラリー島田で映画「阿賀に生きる」を上映できた。建築家安藤忠雄氏の作品だというコンクリート打ち放しのその会場には、西欧の宗教画のような聖母や女神像に思える不思議な作品群が展示中であった。画廊主の島田誠氏から「現代の隠者」石井一男氏の作品だと聞き、新潟での開催を打診された。
 大正時代の棟割り長屋の2階に一人住み、定職についたことがなく、新聞配達の月収5万円のアルバイトだけで(今はこの仕事もない)ひたすら描き続けてきた人らしい。11年前の島田氏との運命的な出会いまで、49年間どこにも発表されないままのグワッシュ(水彩絵の具の一種)の小品は700点にも及んだ。そして祈りを込めた女神たちを描いた初個展はまったくの無名にもかかわらず完売となった。
 女神が心のどこかに棲みついて、「石井一男の世界」の虜となった島田氏はその後も大阪や東京で精力的に個展を開催し、多くの人たちに支持されてきたという。
 今年7月、再びギャラリー島田で開催された個展「こころのかたち」は女神像が菩薩像に微妙に変化し、花や風景画も加わって好評だったと聞く。地元紙はそれを「宗教的洞察ほのかに、精神の深化、造形の進化」と評した。
 しかし、相変わらずその生活の柄は慎ましく、誰も真似できない。石井一男氏は寡黙であり続け、変わらなかった。こんな殺伐とした時代だからこそぜひ見てほしい「現代の隠者」の作品群である。