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2003年10月15日 新潟日報 掲載

あーとぴっくす
 

深い空間描くストイシズム
長谷川徹展
(10月10日〜10月26日 たけうち画廊)

田代早苗(俳人)

「Works'03」油彩 SM

 乳白色の画布にオリーブ色の絵の具が跳ね、散る。極めてシンプルな画面だ。人は「こんなの、誰にだって描ける」と思うかもしれない。また「こんな絵だったら、あっという間に描ける」と思ってしまうかもしれない。実際、画家は「この絵は確かに5分で描けたね」などと語ったりもする。しかし、画布に打ち込まれるように置かれた絵の具の点は、長谷川徹が少年時代にセザンヌの絵に激しく心を動かされたその時から、時を越えて打ち込まれた点なのだ。
 まっさらな画面を前にした時、画面にどういう作品を描こうか、という作家と、画面をどう作品にしていこうか、という作家と二通りあるように思えるのだが、長谷川徹はまさに後者のタイプなのではないか。かって植物を鉛筆で繊細に素描した作品を発表していたころも彼の頭の中にはセザンヌがあったのだろう。リンゴや静物を形だけ真似て描くのではなく、セザンヌの絵画にある抽象性、大胆で緊張感に満ちた画面をいかに構築してゆくかが、常に作家の課題だったのではないか。少し前の作品では鮮やかなプルシャンブルーが画面に躍っていた。今だって青と白の対比が美しい作品を描くこともある。しかし画家のストイシズムは、その受け入れられやすい美に安住したりはしない。あえて運動や刺激を感じさせない色彩を使うことによって、より深い空間の世界を、緊張と弛緩の果てることなきドラマをこれからも描き続けていくのだろう。