n e w s p a p e r
2003年10月22日 新潟日報 掲載

あーとぴっくす
 

まるで小さなオルゴール
近藤美紀子 展
(10月24日〜11月4日 羊画廊)

堀葉月(画家)

「12月」17.7×36.3B 紙にアクリルガッシュ 2003年

 幼いころ、古い小さな箱形のオルゴールを宝物にしていた。
 ベビーピンクの蓋はちょうつがいが少し錆びて硬くなっていた。押し開けるとカリカリと音を立てて軸が回り始め、うすい金属板をはじいて“エリーゼのために”を奏でた。
 近藤美紀子さんの作品を見ていると、あの小さなオルゴールを思い出す。
 アクリル絵の具で描かれた作品は、どれも手の内に収まるほど小さい。派手な色使いもなく、激しい明暗の対比もない。
 モノトーンにも見える背景には、絹糸のような細い線で描かれた人や動物が、つつましやかなポーズで彼らの日常を演じている。
 見知らぬ人の窓を覗くような“ためらい”を払いながら近づくと人物たちは「いいんですよ、見てくださっても」と、眼を伏せ、柔和な笑みを浮かべている。
 さらに一歩踏み出せば、抑えた配色の上に赤や黄の短い細い線が見えてくる。
 一本一本、色糸を置くように引かれた線は、下に塗られた地色に深みを与え、見る者を先へと誘う。導かれるままに跡をたどれば、爽やかに置かれたものたちに行きあたる。
 足元を走る線路、看板に描かれた北斗七星、輪投げのおもちゃ、色とりどりのゼリービーンズ…。
 銀色の鍵盤がキラリキラリひとつずつ跳ね上がり、澄んだ音色が響き始める。