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2003年11月7日 新潟日報 掲載

あーとぴっくす
 

原初の輝き放つ花を描く
萩尾紅子展
(11月1日〜11日 楓画廊)

田代早苗(俳人)

「夢がふたりを結んでいる」
パステル、ワトソン紙
60.0×42.0B 2003年

 荻尾紅子の絵をみていると、なぜだか星の光が脳裏に思い浮かぶ。
 夜空に瞬く星の輝きは何千年、あるいは何万年も遠い昔にはるか彼方の天体から発せられた光が真っすぐに、迷うことなく地球に届いたものだ。彼女の作品には、そんな時空が感じられる。
 ヒトがまだ人類に進化する以前。花がまだ「ハナ」という名前を持たない太古の昔、ヒトという生き物に初めて出合ったとしたら、ヒトの心はどう動くのだろう。「美」などという言葉もまだ生まれず、宗教の概念もない心には純粋に甘く激しく畏れにも似た衝撃が生まれたのではないか。彼女の描く花にはそんな原初の輝きがある。そして時として花は自ら恒星のように輝く。神秘的、といってしまえば楽だし、ファンタジックとそれをみる人もいるだろう。でも、その光はそんな言葉でくくるにはもっと確固とした所から生まれてきているような気がしてならない。
 彼女の作品はパステルを自分の指で紙にのばしながら描いたのだそうだ。「母が点字を打つ仕事をやっててね。指先ってすごいんだな、何でもできるんだなって思ったの」と彼女は言う。作品が淡々とした空想に流されることなく、どこか凛とした力強さを秘めているのは、しなやかで強靱な彼女の指のせいなのかもしれない。