n e w s p a p e r
2004年1月21日 新潟日報 掲載

あーとぴっくす
 

体温を感じさせる作品群
〈始まり〉の備前 隠崎隆一・野村一郎・原田拾六
(2004年1月24日〜2月1日 ギャラリー炎舎)

田代早苗(俳人)

隠崎隆一「備前花入」

 並べられた作品に物としての温度があるわけではない。けれど時として体温のようなものを感じてしまうことがある。
 原田拾六氏の作品は窯の熱が、いまだその肌に生々しく残っているようだ。小さな作品でも大きくみせるダイナミックな造形と相まって、土が持つ野生、地球が生まれたてのころのマグマの熱ささえ思わせられる。現実には細心の計算と技術の蓄積があって成り立つ作品でありながら作為など感じさせない大胆さだ。
 隠崎隆一氏の作品体温はもっと生きているものに近い。写真の花入れは未知の生物体の一部とも、太古の一部族が日々のたつきのために焼き上げた壺ともみえる個性的なかたちをしていながら、全体の印象は極めて洗練されている。肌の色、表情も繊細で美しく、エロチックだ。
 野村一郎氏の作品は前述の二人に比べたら、地味で素っ気ないほど何の飾りもない。ちょっと見ただけでは個性も愛想もないようにみえながら、手にとると不思議な存在感が伝わってくる。柔らかで穏やかな肌には作者自身の体温や息づかいが感じられる。心の奥にひそんでいる孤独とか安らぎ、言葉にすらならない感情の襞(ひだ)が写し出されているような微妙な肌の質感は新鮮ですらある。
 備前焼というものに思い入れや予備知識、固定概念といったものがあるのならそういった目にこそ触れてほしい企画展ではないか。「はじめて」備前焼を前にする気分で作品に向きあえたなら、どんなに豊かな世界をみせてくれるのだろう。