n e w s p a p e r
2004年4月16日 新潟日報 掲載


 

瀧口修造へのオマージュ
新潟で二つのシュールレアリスト個展

上原木呂 孤独の中 一瞬の秘義
(2004年4月12日〜20日 新潟絵屋)

篠原佳尾 鏡の底のぞき続ける
(2004年4月16日〜21日 楓画廊)


大倉宏(美術評論家)
 
上原木呂
「分身2」14.0×18.5B
篠原佳尾
「作品-G」パステル、コラージュ 
40.0×31.0B 2003年

 二人のシュールレアリスト、篠原佳尾と上原木呂の個展が、新潟市の二つの画廊で開かれている。
 シュールレアリスト。
 日本語で言うと超現実主義者と固くなるが、私流に言うと、鏡の底に自由を見る人。
 鏡の面は現実を映す。底は面が映した映像から現実を抜き、骨抜き現実を作る。この骨抜き現実愛好家をシュールレアリストと言う。
 そもそもは第一次大戦直後、未曾有の大戦争の衝撃で西欧の人間がひきこもりを体験する。深く引きこもった何人かが、自我の鏡を見つめすぎ、底に出合う。そして骨抜き現実の不思議な解放感を体験し、興奮した。
 知らせはほどなく日本に伝わる。昭和初期。詩人、シュールレアリスムの紹介者として出発したのが瀧口修造。第二次大戦後は美術評論家として活躍。多くの前衛美術家にエールを送り、自らもデカルコマニー制作に熱中。鏡の底を終世のぞきつづけたシュールレアリストだった。
 篠原、上原の二人は1960―70年代、晩年の瀧口に出会い、影響を受けた。上原は二十代の数年瀧口の近くに住み、親しく接する。自らハプニングアーティストとして活動。その後イタリアに行き、当地の古典道化役者として活躍した後、日本に戻り、巻町の上原酒造の五代目蔵元となり、日本で最初の地ビール「エチゴビール」を作る。
 体調を崩した数年前から一種のひきこもり状態で、コラージュに熱中して生まれたのが、新潟絵屋に並ぶ作品群。この展覧会に上原は「Une rose a vous 一本の薔薇を貴方に」と副題をつけた。貴方とは、若き日に出会った瀧口修造のこと。
 楓画廊の篠原佳尾展も上原のプロデュースで同じ副題がつく。今回を契機に瀧口修造へのオマージュ展を順次企画していきたいと言う。
 篠原の近作もやはりコラージュ。コラージュは既存の印刷物、写真などを切り取り、別の絵に張り付けること。初期のシュールレアリストが鏡の底のぞきの手法として熱中した。
 今はデザイン学校の練習課題にもなるありふれた技法になってしまったが、上原のコラージュは八十年前、それが初めて発見された時の驚きと興奮を、不思議なほど現在形で呼吸している。
 瀧口修造は律儀なほど時代の流れにつき合いながら、一定の距離も置き続けた。シュールレアリスムに出合った出発点から、豊かなひきこもりの世界を生きていたからだろう。
 その精力の衰えた晩年に若き日に出会った上原が、多彩な活動の後に、孤独な時間の中でコラージュという古典的シュールレアリスムの技法にめぐり会ったことは興味深い。
 孤独から孤独へ受け渡されるものがある。その一瞬の秘義を、垣間見る心地。
 篠原展には瀧口修造が序詩を寄せた三十年前の銅板画集「WOHIN」も展示される。