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2004年6月16日 新潟日報 掲載

あーとぴっくす
 

画面に噴き出す空間の感触

二村裕子 栗田宏
(2004年6月15日〜20日 画廊 Full Moon)


大倉宏(美術評論家)
 

二村裕子
「LOCATION I'm Here/There 」

 五月に栗田宏展でオープンした画廊 Full Moon は、古い町屋の住まい部分数室をそのまま展示室にしている。板の間に飾られた二村裕子の絵の線に引かれる。
 以前のシルクスクリーンの作品では、絵の内部を区切りながら、画面に触れている見えない空間を、遠隔操作で慎重に組み立てていくような印象を受けた。近作ではその空間が時折画面に噴き出し、風で線がばらけたり、揺れたりする。今回のドローイングでは、その空間に触れる画家の手の感触が、もっと直接的にあらわれている。感情の揺らぎ、息づかい。
 小品の黒く塗りつぶされた部分など、微妙に色がよりあわされ美しいが、大きい画面の作品ではもっと大胆に、線が躍り出る。幾条も、重なりながら、延び、束になり、分散する線に、空間の皮膚に傷を入れるような緊張感と、子供が地面に引く線のような解放感を感じる。
 併せて展示される七点の銅板画もいい。線が堀のない土地を守る歩哨たちのように見える絵に目を凝らすと、その線が静かな空間にくい込みながら、何かを吸い上げている、かすかで、生き生きした音が聞こえてくるよう。
 常設コーナーの畳の間には栗田宏の作品が飾られる。小品の素描を中心にした内容だが、人の気配の残る空間にひっそり沈みこみながら、細かな鉛筆の線が、雪が庇(ひさし)にあたるように静かな響きを奏でている。
 絵と場所が一つになって、心にふれてくる会場だ。