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2004年7月10日 新潟日報 掲載

あーとぴっくす
 

大人向けの上質な甘さ満ち

ガラス二人展
(2004年7月12日〜17日 新潟市南浜通1・工芸サロン金と銀)


田代早苗(俳人)
 

 こんな楽しい作品を生活の空間に置いたらどんなに素敵なことだろう。山梨の渡辺仁芳子氏、埼玉の神田正之氏によるガラス二人展は大人向けの上質な甘さに満ちていた。
 渡辺氏のガラスの中にはレオ・レオニの有名な絵本「スイミー」の主人公を思わせる銅を赤く発色させて作った魚が泳いでいる。水にみたてたガラスに魚。一歩間違えれば安っぽく子供っぽい作品になってしまう。しかし魚一匹一匹のシンプルでいながら細やかな表現、安易なガラスの素材感に頼らないダイナミックな動きをみせる水の表現。うねり泡立つガラスの表情が美しい。
 渡辺氏の作品がガラスの透明感と「動」の要素を前面に出しているのに対し、神田正之氏の作品は「静」を感じさせられる。キャンディーやゼリー菓子を思わせるさまざまな色彩が、単純で柔らかな形の皿や蓋置き閉じこめられ、表面のつや消しの仕上げも手伝って鮮やかな色彩をふんだんに用いているのに煩くない。幼い日の思い出、あるいは軽快な音楽が凝ったらこんな色とかたちになりそうだ。
 二人ともガラスづくりを心から楽しみながら、手を抜かない、惰性でものをつくらない、そんな姿勢がしのばれる。ガラスという素材を作品の領域にまで高めるものは、まさにこの姿勢あればこそなのだろう。