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2004年7月13日 新潟日報 掲載

あーとぴっくす
 

あふれる輝き、至福の境地

追悼 坂倉新平の水彩
(2004年7月12日〜20日 画廊 Full Moon)


越野 泉(画廊 Full Moon 主宰)
 

 

 今年5月、坂倉新平さんが69歳で亡くなられた。水彩画13点を並べるこの展覧会が、没後初めての個展となる。
 坂倉さんは岐阜の生まれ。十代の半ばまで浄土宗のお寺に預けられて育った。二十代の終わりから18年フランスで生活し、帰国後は神奈川県二宮で制作を続けた。
 坂倉さんの絵は油彩も水彩も、ひとつひとつが輝いている。その光は多様で、いろいろな種類の宝石を見るようだ。
 絵の前に立つと、ぐーっと引き込まれ、目から入り込んだ何かが体中を駆けめぐり、頭の中が清涼感で満たされる。いい気持ちもさまざまで、こんなに豊かな感覚、感情を体験させてくれる絵は少ない。楽しさ、懐かしさ、癒やしばかりでなく、寂しさや悲しさといった心地も呼び覚まされるが、決してマイナスの気分として感じられるのではない。それらをも不思議な明るさ、輝きに変えてしまう魔法の力が絵に備わっているかのようだ。
 坂倉さんを「光の画家」という人がいる。それは作品が輝かしく明るいということだけでなく、精神性を厳しく絵に求め続けた画家が到達した、静かな至福の境地が、見る者の心に光となって射し込むのだと思う。
 葬儀は住まいに近い浄土宗の寺の、緑に包まれた境内で行われたとのこと。ごめい福をお祈りいたします。