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2004年8月24日 新潟日報 掲載

あーとぴっくす
 

古い町家を「しつらえる」

抽象画による夏の室礼
(2004年8月22日〜29日 画廊 Full Moon)


大倉宏(美術評論家)
 

 画廊Full Moonは新潟の古い町家を改装した画廊。
 床の間、長押、神棚、板戸、障子など昔のままの姿を残す内部。そこに今回は栗田宏、坂倉新平、等々力弘康、中村一征、二村裕子、吉田淳治の六人の抽象画を「夏の室礼(しつらい)」として飾る。
 掛け軸などの鑑賞絵画とともに、日本には壁絵や襖絵、屏風絵などの環境絵画の系譜があり、絵と工芸品、花などを取り合わせ、その時々、季節季節の空間を作り変えて楽しむ「室礼」の風習があった。抽象画は日本の伝統を切断した「近代絵画」の後裔だが、それを用いて古い庶民の家を「しつらえる」試み。
 作品選びから始め、あれやこれや一週間ほど、画廊主とともに私も作業に参加した。展覧会の主役は作品だが、室礼ではそれが場所。絵は美しい場を作り出す要素に一旦身をかがめ、時と場の空気を吸い、時空に息を吹き込むことで自分を輝かす。
 「展示」には慣れた私たちも、今回はそうした意識転換を含め難しかった。村田珠光流に「洋(=西欧的近代)と和の境をまぎらかす」ことができたかどうか―結果は来客の方々の目に尋ねたい。
 画廊のある路地を古町に抜けると、町家座敷を雑貨店に改装したTOROWAがある。土間を敷石を置いた露地に変え、板床になった座敷に靴であがる斬新な内装。さらに近くの小路を西堀側へ入ると、町家の建具や梁を生かした居酒屋しののめが、鍛冶小路を東中通に向かうと、町家の一、二階で紅茶の飲めるSugar coatに出会える。
 Full Moonから、最近新潟に増えたこうした新しい室礼の町家を見て歩くことも勧めたい。