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2004年9月14日 新潟日報 掲載

あーとぴっくす
 

時間と記憶、鎮魂 見事に紡ぐ

「蔵ISM・クライズム〜蔵の中での現代アート」
(2004年9月5日〜15日 長岡市本町・ギャラリー沙蔵)


佐藤秀治(美術家)
 

 伊藤希代子・関根哲男・前山忠のジョイントを仕組んだのは、頭文字のI・S・M欲しさでなく、選定後のひらめきからで、新たな意味も加わり企画の面白みを増した。近年では広義の現代美術が市民権を獲得しつつある中、真剣に同時代表現を思考する作家たちに出会いを提供し、見えにくいこうした動向を顕微化していこうとする企画展「ART POINTSシリーズ」の第二弾である。
 今回は本県の現代美術の草分け的作家二人に生きのいい若手を加え、どんな風を蔵空間に巻き起こすかであり、成功している。
 関根は昨年来、既に追究し終わったと思われた「原生」シリーズに再構築を試みていたが、その予想を覆し、200号余の大パネルに迷いもなく完成度を凝縮して新境地を見せている。一方、蔵の両隅に設置することを前提とした前山の「視界1」・「視界2」は、高さ3メートルの巨大な木製立体作品である。近年は野外、室内を通して、鏡や自然石などの組み合わせからシンプルさに移行している。よりストレートであるとともに「意味の重層化」を獲得してのことで、コーナーに置かれた木枠の味わいは現場の生体験に委ねることが賢明である。灯り作家という印象の伊藤は、今回も虚実を織り交ぜ空間演出を試みているが、特に壁一面に置かれた前後を削ぎ落としたローソク群は時間と記憶と鎮魂を見事に紡ぎ出している。今後も追体験したい三作家の競演である。