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2004年9月17日 新潟日報 掲載

あーとぴっくす
 

にじみ、流れ…色は豊かなドラマ

吉田淳治の水彩
(2004年9月12日〜20日 画廊 Full Moon)


田代早苗(俳人)
「WATERCOLOR-73」

 よい作品に出会うと言葉なんていらないと思う。言葉になった瞬間から「みるもの」から文字へと異質なものへ変化してしまう。それでもまだ作品の良さを伝えるには、どうしたらよいものだろう。方法は大まかに言ってふたつ。ひとつは開き直って文字としてその世界のエッセンスを伝える。そしてもうひとつは作家の経歴や方法論、技術論をこと細かに書くこと。
 でも吉田淳治さんの作品にはそんなことは不要だ。確かに吉田さんの色彩の美しさは出身地であり、今も住み続けている宇和島の穏やかな海や気候が大きく関わっているのだろう。でも作品そのものに対してはそれすらただの説明でしかない。題名もシンプルに WATERCOLOR(水彩)のWと数字のみ。不用な説明は一切ない。吉田さんの作品に抽象とか具象とかの分類分けもいらないだろう。にじんだり、流れたりしながら色は豊かなドラマをみせてくれる。柔らかに広がり暗く消えてゆきながら、時として海や空や植物などの自然の景物に、また時として心象風景のように、後になって吉田さんの絵を思い出すとき、不思議とその大きさの感覚が、あいまいなのに気付かされる。むしろ小さなサイズの作品が多いのに記憶の中を大輪の花が開いて満ちてゆくように大きく広がってゆくのだ。こんな作品に出会ったら、ただ「きれいですね」とだけしか言うことが、出来ない。