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2004年9月20日 新潟日報 掲載

あーとぴっくす
 

場所を聞く即興の舞踏

堀川久子独舞「あなたのように as You」
(2004年9月23・24・25日 劇団五十嵐劇場アトリエ)


大倉宏(美術評論家)
 

 堀川久子さんに初めて会ったのは、3,4年前。彼女が新潟下町の路地で踊りだした時分だった。当時の会話で印象に残るのは、新潟市芸術文化会館という、その頃話題の芸術空間に、彼女がはっきり違和感を語ったことだ。
 古い町、下町への接近は、彼女の踊りが場所を感じることに支えられている、当然の結果だった。場所には歴史が、記憶が、感情がある。人と同じだ。違和感は場所からそれらを消去して生まれる近代的空間奥行きの浅さに対してのものだったのだろう。
 彼女の舞踏は完全な即興がベース。即興は既定の型、プログラムから現在を解き放つ手法だが、解放された場に、外から訪れるものとどう向き合い、関わるか。凡庸な即興と、優れた即興がそこで分かれる。
 踊る前に彼女は繰り返し場所へ行く。人と話し、佇む。踊りはそこから始まっている。見終えたあと、踊りの映像が消え、場所の気配だけが濃厚に心に残ることがある。それは彼女の踊りでは場所が、踊りを目立たせる台ではなく、踊りを通って見る者に開かれていく内容そのものだからだろう。
 「あなたのように」は新潟市郊外の畑地にある小劇場で踊られる。外部と薄い膜一枚で隔てられた閉空間での今春の舞踏では、鏡の破片のように舞い降りる紙吹雪を、ゆっくりかき分けていく姿が、いつになく内省的で重かった。珍しく明確に構成された空間と時間のなかで、自分という場所の底へ、自らを細かく砕きながら、遡行していこうとするかのようにも見えた。
 数カ月を隔てての再演で彼女はどのように場所を開こうとするのか。見に出かけたい。