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2004年9月21日 新潟日報 掲載

あーとぴっくす
 

聞こえてくる自然の声

竹久野生展
(2004年9月22日〜30日 新潟絵屋)


吉田加南子(詩人、学習院大学教授)
 
「種子飛ぶ―松林の中」綿布に油彩 2004年

 大きい。たっぷりと豊か。竹久野生の絵には、制作時期と方法を問わず、いつもゆったりとめぐっているものがある。
 彼女を評して、矢内原伊作は「太陽と風の娘」と言う。
 時には骨太なタッチで描かれた風景や人物。時には抽象の繊細な構図や透明な青や赤。どれをとっても、光や風、空や土、花や葉のつぶやきが聞こえてくる。そして匂い立ってくる人生。つまり愛や悲しみや喜び。
 竹久野生は辻まことを父、武林イヴォンヌを母として東京に生まれた。竹久夢二の二男、不二彦夫妻に引き取られ、夫妻の養女として北海道で幼少期を過ごす。上智大学史学科卒業後、京都大学林学科で造園を学ぶ。その地での仕事を任された同窓の造園家の夫とともに、1968年南米コロンビアに移り住む。1980年コロンビア国立大学美術科を卒業。ボゴタに住みながら美術活動を続けている。日本では主に東京の画廊で活溌に作品を発表している。
 ついアンデスの風土、と言いたくなるが、今回展示される近作は、今やアンデスさえつきぬけて自由に羽ばたいているように見える。空と花や葉、そして目に見えるものと目に見えない時間が、それぞれ息づき、対話をしている。その自然で柔軟な呼吸が見る者を幸福にし、広やかな世界へと誘なってくれる。
 なお彼女には、ネルダー、矢内原伊作訳『マチュ・ピチュの高み』(1987年、みすず書房)装画の優れた仕事、そして画文集『アンデスの風と石が運んだもの』(1996年、三修社)の著作もある。