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2004年10月5日 新潟日報 掲載

あーとぴっくす
 

ものを作る喜びきらめく

伝統工芸金工展
(2004年9月27日〜10月9日 新潟市南浜通1・工芸サロン 金と銀)


田代早苗(俳人)
 

 「好き」を通り越したエネルギーを感じさせられることがある。情熱というより、もっと粘り気のある根気とか持続力といった言葉に置き換えられたりもする力。
 泉公士郎の「正倉院御物写紫檀鍍金花唐草玉装刀子」という作品、名前は長く厳めしいが要は国宝の復元、修復にも携わってきたこの作家が正倉院に収められている太刀をペーパーナイフほどの大きさにコピーしたものだ。しかしその可憐さは実物のかたちの美しさを越えて胸に迫ってくる。当然、金工が好きだからこの道を作家は選んだのだろう。しかし金工をはじめ、いわゆる伝統工芸はその技術を習得するのに長い時間と地道な作業が要求される。絵画や写真といった美術作品に比べたら感性や感覚といった曖昧なものに逃げられない。また技術の高さ、凄さのみに溺れた工芸作品も少なくない。しかしこの小さな太刀には、ものを作り出す喜びがある。この太刀の真作を生み出した先人への畏敬の念とともに自分がどこまでその技に近づけるか、わくわくしながら作業していた稚気が繊細な細工にきらめいている。同じ作家による「うさぎ金彩水滴」=写真=も手にのるほど小さな作品でありながら生き物の体温や息遣いまで伝わってくるようだ。浅井盛征の蝶やトンボ、かわせみをモチーフとした香炉も素晴らしい。技術を真に自分のものとした自在さと金工への愛がここにある。