n e w s p a p e r
2004年11月2日 新潟日報 掲載


 

若き日の「陶聖」描く

映画「HAZAN」公開に寄せて
(2004年10月30日〜11月12日 シネ・ウインド)


小川弘幸(NPO法人文化現場代表)
監督: 五十嵐 匠
原案: 荒川正明
脚本: 荻田芳久/ 五十嵐 匠

2003映画波山製作委員会
108分

出演: 榎木孝明/ 南 果歩
    康すおん/ 柳ユーレイ
   寺島 進/長谷川初範
   大鶴義丹/ 益岡 徹
   中村嘉葎雄 他

対照的な夫妻の演技
茨城フィルム・コミッション第1作
新潟でも支援の輪を期待

 明治、大正、昭和にわたる作陶人生を歩み、日本の焼き物を近代的な芸術として確立したことで知られる陶芸家、板谷波山の若き日を描いた劇映画が新潟市で公開されている。
 「陶聖」と呼ばれ、その作品は「神器」とさえ評される波山だが、その軌跡は平たんなものではなかった。
 教師としての安定した生活を捨て、自己の創造精神にあくまで忠実であろうとする波山と、夫の才能を信じ、覚悟をともにしながらも、生活との折り合いに苦しむ妻。「私は泣いてもいい。でも子どもたちをあなたの夢で泣かせるのは嫌だ」と叫ぶ妻まるの言葉が象徴的だ。
 波山役に榎木孝明。画家として美術への造詣も深い榎木が独自な波山像を確立すれば、妻まる役の南果歩が静的な波山に対し、情感迫る動的演技で好対照を成している。
 監督は、写真家沢田教一や童謡詩人金子みすゞの半生を描いた作品などで、実在の人物描写に定評のある五十嵐匠。
 本作は波山の故郷、茨城県内でほとんどのロケーションが敢行されたのみならず、エキストラをはじめ、多数の県民が映画製作に関わっている。
 近年、映画などの撮影支援を行うフィルム・コミッション(FC)が地域の活性化策として関心を集めているが、映画「HAZAN」は、いばらきFCの第1号作品でもあり、県民の誇りと心意気が結実した成果として魅力的な作品に仕上がっている。
 新潟でも、にいがたロケネットをはじめ、各地でFCの動きがあり、それぞれ成果を挙げているが、課題も少なくないようだ。本作が刺激となり、FCへのさらなる理解と支援の輪が広がることを期待したい。