n e w s p a p e r
2004年11月23日 新潟日報 掲載

あーとぴっくす
 

透明な、風の気配は今も

戸川淳子展
(2004年11月25日〜30日 羊画廊)


大倉宏(美術評論家)
「青い樹」
板にアクリル、ダーマトグラフ
 30.0×45.0cm 2004年


 数度前の個展から、戸川淳子は気になる作家だ。
 半透明の殻なし卵のようなイメージ、どこか生き物の気配のある形。
 以前はそんな心象めいたものが、この人の描く起点にあって、そこに絵がとらわれている気配があった。けれどイメージの草むらをかき分けて、なにか透明なもの、風の気配がめぐりだしたと感じたのが3、4年前の個展。
 それからまたイメージの力がややふくらんで、イメージと風が、あやういバランスのなかでせめぎ合っているように見えた。その感じは今回も継続している。DMにも使われた「青い樹」=写真=やリトグラフの「5つのしるし」などに、とてもいい風がある。
 イメージから離れる地点は、絵がモノに出合う場所。「青い樹」では支持体である木目の波打つシナ合板と、やわらかく擦りつけられたダーマトグラフのおぼろげな筆触、透明に重ねられたアクリル絵の具とニスなどの、モノのふれあいが絵の具に、風になって、イメージではなく、絵を、揺らしている。
 「5つのしるし」でも、紡錘形の細胞のようなイメージの隙間の空白の紙の美しさと、揺れるような線が楽しげに声を交わし合っている。イメージより絵の声が、タッチの差で先に届く。
 どれもがこの2点のようではないが、それでも時に先行するイメージの向こうに、風の気配は見える。
 その風をこれからも、もっと目に感じてみたい。