n e w s p a p e r
2004年12月25日 新潟日報 掲載

美術時評
 

性表現の可能性追求

「小川真琴の個展」
(2004年11月2日〜14日 長岡・ギャラリーdotONE)


佐藤秀治(美術家)


 中越の美術状況を見ると、ここ2、3年の動向は大きな飛躍を見せ注目に値する。その原動力には新設画廊が交流・発表の磁場を形成したこと、大小さまざまな活動を仕掛けたことにある。特に若いアーティストの台頭が著しい。その中から注目の「小川真琴の個展」を紹介したい。
 会期は運悪く震災の最中であり、人の目にも触れぬ間に終焉を迎えてしまった。「作品 不快指数80%以上」と名付けた理由には、自らのアートは三流品であり、しかもただならぬ毒を含んでいるから、心して鑑賞せよと半ば挑戦的な表明である。
 小川は自身の性の問題をアートとして扱う希有なアーティストである。短絡的に「ジェンダー・アート」と呼べば、世界のシーンに組み込まれ亜流として埋没する危険がある。小川は画廊空間を二分割し、消灯した暗い一室を鑑賞者を招き入れた。次に二室へと移るために腰をかがめてくぐる「狭い不便な穴」を用意した。これはこの世とあの世の境界を意味する日本古来からの表現、いわゆる「胎内くぐり」を立体的に構成したものである。現実と虚構。対極する両性、社会と自己、揺れ動く二つの世界を同時に表すのにこれ以上の合致した見せ方は他にないと思われる。
 更に、くぐり抜けるとき、神々しい光に遭遇する。センサーによる小気味いい演出も効果的だった。小川の性の課題提起が未整理なところが気になるが、逆に強い意志と居直りと投げやりと苦悩で混沌とする心の揺れが鮮明に読み取れる。アートで性表現の可能性・自身の在り方の追求を見事に発信したといえる。中越は今が面白い。次回作を楽しみにぜひ記憶の隅に留めておいていただきたい。