n e w s p a p e r
2005年1月24日 新潟日報 掲載

あーとぴっくす
 

木版の画面に確かな存在感

林美紀子展
(2005年1月21日〜2月1日 羊画廊)


田代早苗(俳人)
光合成1
木版 59.2×59.2cm
限定6部 2004年


 心の中にある時間は水のようにそのかたちを変える。遠くにある澄んだ湖のような過去の思い出の時間 そこから流れ出てゆく流れのような、今を生きてゆく時間。すべてがあった上で自分自身の思いはかたちづくられてゆく。
 林美紀子氏の作品をみていると、ふとそんなことを考えてしまう。〈光合成1〉=写真=はまさに今、現在。色を積み重ね知的にきちんと構成して楽しんでいる、まさに現在進行形の自分自身。さまざまな色を使っていながら、決してざわついてはいない。ひとつひとつの色がどこかノスタルジックなせいか明るい弦楽アンサンブルの演奏のように美しい調和をみせている。それに比べると「方丈」の連作は「和」の雰囲気。それも古い着物や納戸の奥の布団。手を伸ばせば届きそうで届かない思い出の中の色。緊張感のある画面は単なる郷愁に終わらせない。心の深い部分が引き込まれてゆく。
 「公園の午後」のシリーズにあるのは子供の時間か。すこし暗いけれど透明な青と緑。幼い頃のどこか甘美な不安や孤独を思い出させる。同じ子供時代を感じさせるものでも「ふくらし粉」「かたくり粉」は母親のエプロンごしにみた日曜の真昼の台所か、のどかな雰囲気。それぞれの作品によって受ける印象はだいぶ違う。けれどみな、一つの思い出の湖から流れ出てきたイメージなのだろう。美しい刷りの木版の画面に曖昧さはなく、それぞれが確かな存在感を持つ。