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2005年2月25日 新潟日報 掲載

あーとぴっくす
 

力強さと優しさと

矢尾板克則展―思考を引き出す〈揺〉れ―
(2005年2月26日〜3月6日 ギャラリー炎舎)


田代早苗(俳人)


 大きな災害に幾度と見舞われた昨年の影響を受け、今年も多くのチャリティー展が開催された。
 人間として、この非常時に何か役に立つことがしたい、という気持はもちろん尊い。しかし作家であったら、もう一歩踏み込んで災害によって生まれた自分自身の心の揺れ、歪みをみつめるべきではないか。
 報道的に被災地を映像化する、あるいは災害そのものを題材にするといった姿勢とは別に、自分の受けた衝撃、傷を昇華する作業が作家には必要なのではないだろうか。
 矢尾板さんは昨年10月23日、グループ展のためちょうど県外にいたそうだ。地震の報に急いで帰ってきた彼がめちゃくちゃになった工房を目にしたとき、もう何もする気にもなれなかったという。
 そんな状態を乗り越えての今回の作品は、人間の手が作り上げた重みと柔らかさがある。
 震災直後の無力感から徐々に立ち直り制作に向かう彼が表現したかったのは「やさしさ」だそう。普段なら少し気恥ずかしい言葉かもしれない。だが色とかたちは作品の上でしっくり溶け合い明るい表情をみせる。静かだけれど力強く優しい鎮魂歌が聞こえてくる。器を手にしているとそんな気分がする。