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2005年2月28日 新潟日報 掲載

あーとぴっくす
 

魅了される深く芳醇な色彩

渡邉早苗展
(2005年3月2日〜10日 新潟絵屋)


山下透(アートNPO推進ネットワーク)
「どこまでも」ミクストメディア
  25×17cm 2004年


 渡邉早苗の作品の素晴らしさはその色彩にある。バングラデシュの手漉き和紙に顔料で描いたテンペラ画であるが、はじめて作品を見たときその深みを帯びた色彩にしばらく見入ってしまった。それはあたかも発酵を重ね熟成した葡萄酒の色のごとくであり、とりわけ作家がこだわる濃い赤色と群青色は深く芳醇な色の香りを漂わせて美しい。しかも作品の魅力は色彩だけにとどまらず、見る者に何かを語りかけるかのようだ。
 一見抽象に見える画面の其処彼処に小さな“かたち”が垣間見え、よく見るとそれは微かな風景の断片であったりして、そこにあるのは紛れもない具象の世界である。その小さな微かな“かたち”は時に建物であったり公園の階段であったりするが、どれも作家の辿ってきた青春の一齣(ひとこま)に違いない。以前濃紺の抽象画面の真ん中に窓枠らしきものが描かれた作品と出合ったことがあるが、その窓枠から外を覗くと過ぎ去りし日の記憶の風景が心に浮かぶ気がしたものである。「日記を書くみたいに風景を描いている」「祈っているような感じで絵を描いている」こう語る作家はまだ若いが人柄も純粋で好感が持てる。
 この展覧会は東京に拠点を置くアートNPO推進ネットワークが、大倉宏らの新潟絵屋とのコラボレーションですすめる第2回展である。アートNPO推薦作家を新潟の人々に紹介したいと思い企画した。私たちが新潟にこだわるのは何故なのか。佐藤哲三と新潟の風土を愛し地域の人々と密着したアート活動を続ける大倉氏の生き方に共感を覚えているということなのだと思う。次回は地道な作品制作を続ける新潟の作家を東京で紹介したいと考えている。