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2005年3月15日 新潟日報 掲載

あーとぴっくす
 

質感豊か、心和む固有の質

野中光正展 油彩・木版
(2005年3月9日〜20日 画廊 Full Moon)
野中光正展 素描・1970年・夏
(2005年3月12日〜20日 新潟絵屋)


和田章一郎(ゆーじん画廊主)
「本所付近」1970年 コンテ、紙


 抽象画はわからない。多くの人が絵の前でつぶやく。だが果たして「絵がわかる」とはどういうことなのか。30年近く画廊で絵を見続けている私には絵はますますわからない。いやむしろわからないからこそ魅力なのだと言いたい。
 画家は描きたい対象を描くのだとしても描かれている対象が分かることと、絵がわかることは全く違う。下界=風景・人物も内面=感情・観念も描く対象にほかならず、その意味では抽象も具象も同じことなのだ。
 35年前の夏。生まれ育った東京下町の風景を無心に写生した素描には杉板、セメント、トタンの懐かしい街の姿がコンテの粘質な黒い線で直裁に捉えられ白黒の明快な階調は照りつける真夏の日差しをも感じさせる。
 近作の油彩、木版画は矩形の色面による簡潔な構成が中心で、自作パネルや高柳町・小林康生氏の手漉和紙の上に必要最小限の色彩空間を出現させている。
 特筆すべきはその色彩で自作の絵の具を用い彩度は強いが派手ではなく、かつて「木造家屋の匂いのする抽象」と評されたように質感豊で心和む、固有の質をもっている。
 具象と抽象、どちらもその対象を説明することが目的ではない。描くことでより明確に対象に迫りたいという画家の強い意志・思考、それこそが線になり色になり形になり「絵が生まれる」のではなかろうか。