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2005年3月18日 新潟日報 掲載

あーとぴっくす
 

木を見つめ“命”を吹き込む

さいとうようこ 流木のオブジェ展
(2005年3月12日〜27日 柏崎市・ギャラリー十三代目長兵衛)


小林弘(新潟国際情報大非常勤講師)
「ツキノコグマ」


 「壁のしみとか、くぼみとかをじーっと見つめる。まばたきをしないぞ、というくらいの気持で見つめていると、いろんなものが見えてくる」
 少女のころ、さいとうようこは、それを「仙人になるための修行」と思い込んでいた。長じた今、壁が「流木」に変わった。何の変哲もない木の魂を凝視する。何かが見える。細工を施す―。新しい命の誕生だ。完成するまでに3ヵ月、いや2年かかることもある。ただ、加える手はなるべく少なくしたいと思っている。
 「流木オブジェ」と呼ばれることには抵抗がある。紙が苦手でベニヤ板を代用した。「絵」の部分は自然と半立体になった。気づいたら「立体の仕事」が中心になっていた。彫刻家の粘土のように、さいとうにとって流木は立体創造の大切な素材だ。
 15年前、東京のグループ展でデビューした。その後、郷里新潟市の個展で、絵本作家の曽田文子がさいとうの仕事に興味を持った。
 曽田の家は柏崎市に13代続く旧家で屋号は「長兵衛」という。築後150―200年と推定される土蔵があり、昨春、道路拡幅工事の余波で画廊に改造された。文子は画廊代表である。国の登録有形文化財に指定された建物は、現代美術にもよくマッチしている。
 さいとうは蔵を意識し「日本の動物に」こだわった。流木そのままの生地を生かし、「ツキノコグマ」=写真=のように彩色も極力抑えた。今展観の好ましい傾向である。
 柏崎は「とんち教室」の石黒敬七、「痴娯の家」の岩下庄司ら異色収集家が輩出した土地柄だ。“仙人志望”の造形作家はどう評価されるのか。