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2005年6月4日 新潟日報 掲載

あーとぴっくす
 

確かなエネルギーが息づく

現代アポリジニ美術展 ― ドリーミング ―
(2005年6月4日〜14日 羊画廊)


田代草猫(俳人)
ヘレン・ロース(Helen Ross)
「岩間の水たまりを飲む二匹の蛇」
キャンパスにアクリルガッシュ
85.0 × 50.0 cm 2002年


 ここで使われる「ドリーミング」と英訳された言葉はただの夢という意味ではない。天地創造のはるか遠い過去から「ついさっき」までの広い時間を含んだ概念であり、人間・動物・植物などさまざまに姿を変えて表れる精霊のことでもあり、先祖から伝えられた大切な儀礼でもある。約六万年前からオーストラリア大陸に住んでいたアポリジニの人々は文字を持たず、狩猟と採集の旅をしながら生活する。彼らの絵画は樹皮や地面に描かれるのが本来の姿であり、一見抽象的にみえる画面は紋様それぞれに野営地、泉、槍、カンガルー、座る人といった意味を持ち、旅の記録や地図でもあるというのだ。
 砂漠で描かれた絵画は原初の風が吹き渡るように、爽やかさすら感じられる。「絵を描くという行為は、まさに神聖なる行為なのだ。それは地球に触れる行為なのだから」というアポリジニの画家の言葉は大地をキャンバスに写し換えて描かれるようになっても変わらない。木の枝の先で描かれたという画面を埋めつくす点描の、一つ一つにも確かなエネルギーが息づいている。
 ―絵は楽しみのために描くのではない。わたしの絵には、深い意味と知識、そして力が秘められている。この絵をごらん、これは創造と土地の神話を物語っている。大地はわれわれの母。決して空虚なものではない。―
 ヨロングの長老、ワンジェク・マリカの言葉のとおりではないだろうか。