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2005年7月15日 新潟日報 掲載

あーとぴっくす
 

日常空間に表れる一瞬の美

瀧谷美香展
(2005年7月18日〜26日 楓画廊)


田代草猫(俳人)

 私たちを取り巻く街は美しくないのだろうか、絵画作品で街並みが描かれるとき、よくあるのが、そこに都会人の孤独やら、現代社会の冷たさ等々、さまざまな意味を含ませたもの。あるいは街の片隅に残された古いノスタルジックな光景を郷愁を込めて描いたもの。作家それぞれが描きたかった一種のデフォルメされた世界ではあるけれど普通の「今」の風景は描かれないものなのだろうか。
 私たちが日常吸っている空気には高原のさわやかさはなく、私たちが日常生活を送る街並みは観光地になるような古都でもなければ、TVドラマに使われるようなお洒落な雰囲気に満ちているわけでもない。しかし私たちの日常はそのさほど美しくもない街の中で営まれ、その中で喜び、悲しんで時間は過ぎてゆく。そしてふと見上げた夕空に思いもよらない美しさをみつけ出すこともあるのだ。
 瀧谷美香氏の描いた「碧壁」=写真=はそんな普通の今の空。実際は銀座で出会った風景を基にしたそうだけれど画面の建物には華やかさも重厚さもなく、どこにでも見られるありふれたビル街だ。空だって鮮やかな夕焼けではない。それでも天空が昼から夜へ変わる微妙な一瞬がキャンバスに留められている。
 瀧谷氏の作品には街中で誰もが目にし、そしてすぐ忘れ去っていくような光と影の繊細な物語、何でもない道路や階段の空間に表れる美が描かれる。その風景はガラス越しにみているような距離を感じさせられることもあるけれど、瀧谷氏はそのガラスを少しずつ開けて外へ出てゆこうとしているようだ。