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2005年8月2日 新潟日報 掲載

あーとぴっくす
 

夢紡ぐ水彩と紙の灯台模型

Lights your way・式人式・空想燈臺展
(2005年7月29日〜8月7日 柏崎市・ギャラリー十三代目長兵衛)


佐藤秀治(美術家)

 蔵を改装した画廊空間の趣が気に入ってのラブコールである。東京在住の水彩アーティスト・西丸式人(さいまる のりと)の灯台をモチーフにした水彩と紙の立体模型展が作家の希望で実現した。港町柏崎は、名代のコレクションの街であり、夢を紡ぐ舞台として申し分ない。ここを基点に海の匂いのする全国の街を巡回するのだという。式人式の灯台は「灯台の日」(11月1日)になぞらえ111点を展示。海のBGMを流し、レトロ・ファンタジーといった雰囲気で、懐かしく優しいイメージを連鎖している。
 航海の案内塔に、凝縮したさまざまな思いが重層し、制作へと駆り立てるエネルギーはその終焉への鎮魂歌である。過酷な役割とは裏腹に、岬を訪れて仰ぎ見る白く眩い清楚な貴婦人のようなたたずまいに誰しもが息をのむ。思えば灯台は相反する魅力を併せ持っている。海上へ向かい振り向くこともなく、背後で暮らす人々の日常を拒絶している。無縁でありながら岬の風景に同化し心安らぐイメージを包括している。
 新潟は、長い海岸線を誇るが有人灯台の記憶を持たない。私たちの灯台への憧れは、絵本世界の入口で足踏みしたままである。空想灯台との触れ合いが鑑賞者のこころのすき間を照らす航路標識になると誘っている。水彩アーティストの余技から生じ、すでに制作の手から放たれた独立作品となっている。いわゆる「灯台フェチ」であり、この飽くなき制作は独自の世界観を形成するもので、正統OTAKUに通ずる。