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2005年9月17日 新潟日報 掲載

あーとぴっくす
 

「だいそれた」願いこそ原点

冨所龍人展
(2005年9月22日〜27日 羊画廊)


小見秀男(新潟県立近代美術館学芸課長)
「窓」 板に油彩
41.0 × 24.3 cm  2005年

 冨所さんの絵に寄せる思いはとても熱い。どうして油絵なのかの問いには「キング・オブ・アート」だからと明快。
 この思い入れは、レオナルドやラファエロを画集で見た少年時代から少しも変わらない。まるで神の手になるような彼らの油絵はどうしたら自分にも描けるのか。この一見「だいそれた」願いこそが、彼の油絵修行の原点となった。
 画学生以降、20年の修行は「旧式ラジオからの微かな音を聞き取る」ように自分の内発する声に忠実にゆっくりと続けられた。発表してもいいと思えるようになったのは、ここ数年とのこと。
 出品作品を見せてもらった。一言で言って、なかなかの筆力からうまれた素晴らしく詩的な写実絵画が揃っていた。
 いずれも写実絵画の生命線であるヴァルール(色価)は確かで、色は深みがあり、モチーフの透明感をたたえた質感表現は滑らかで心地よい。「窓」=写真=のように寓意や文学性も優しく内包した画面には夢幻的で透き通った空間が広がって、無声の詩を唄う。
 これらを可能にしたのは、気づいてくれる人があればそれで良いというふうに、さりげなく用いられた水性白亜地(石こう)の支持体とグリザイユ・カマイユ(単色画法)という古典技法である。身に付くまで随分と試行錯誤したが、これによってようやく自分の納得する「古典的」で「根」のある絵作りが出来そうだとのこと。目指す絵を可能にする「技術」の発掘も画家の才能なのだ。
 冨所さんの今回の個展は素材、技法とに結びついた想像力と創造力の大切さにあらためて気づかせてくれるだろう。