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2005年9月30日 新潟日報 掲載

あーとぴっくす
 

固定観念脱した想像の世界

現代美術のABC〜アートはあなたのそばにある〜展
(2005年9月3日〜10月9日 新潟市新津美術館)


荒井直美(新潟市新津美術館)

 足で描いた絵、キャンバスを大地に埋め「土が描く」絵画、太陽の一年間の軌道を収めた「太陽が描く」写真、使い古しの日用品を使った「ゴミで作る」彫刻―当たり前すぎるほど身近なものが思いがけない姿を現す。現代美術はどうして難しいといわれるのだろう。古代の人々は、明日の狩りの成功を願い、今ここにいない獲物の姿を描いた。昨日までの記憶をたどって、今は亡き人の姿を描いた。目に見えずとも天にまします神々の姿を描き、彫りだしてきた。
 ここにはないものをあらしめる想像の力は、われわれの祖先が「人間」になったとき、言葉より以前に手に入れた能力だった。幼子は今でも言葉を覚えるより早く絵を描く。そして芸術家は今でも、目に見えるものの中にひそむ見えない何かを―ときには目を背けたくなるような何かさえも―明らかにしようと格闘する。決まりきったものの見方こそが、ものの正体を見えなくしている。絵の具という固定概念を外してしまえば、世界は素材にあふれている。
 クローバーの自然、ハートの人体、ダイヤの生活、スペードの社会、不思議の国のアリスよろしく会場を歩いてみよう。こう見なくてはならない、なんて考えは捨ててしまおう。トランプのカードのように頭の中で並べ替えながら、作家ごとに違う表現身を委ねれば、きっと何かが見えてくる。そこには、同時代に生きるわたしたちへのメッセージが必ず込められているはずだから。