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2005年11月12日 新潟日報 掲載

あーとぴっくす
 

出会い、ルーツ、友情が結ぶ

いのちは まるい 坪谷令子 展
(2005年11月12日〜20日 新潟絵屋)


旗野秀人(新潟絵屋運営委員)
「年輪とハス」
2005年

 ふた昔も前の話だが、息子たちにはよく寝る前に絵本を読み聞かせたものである。
 3年前、縁あって神戸のギャラリー島田で映画「阿賀に生きる」を上映することが出来た。そのとき出会った坪谷令子さんが、息子たちに読んで聞かせた「ろくすけどないしたんや」「せんせいけらいになれ」(理論社)など一連の灰谷健次郎さんの挿絵を描いている人だと初めて知った。
 児童文学者灰谷健次郎さんが初めて老人をテーマに書いた小説「風の耳たぶ」の存在も実は坪谷さんから紹介されるまで私は知らずにいた。
 その小説の主要な舞台のひとつが良寛さんを生んだ新潟であり、坪谷さんのルーツとも深くかかわりがあって、新潟を訪れた折に絵屋にも立ち寄ってくれたのである。
 そんなご縁から今回は「風の耳たぶ」を中心に据えた展覧会にしたいとの意見に異論があるはずもなかった。
 この夏、再び「風の耳たぶ」の地に身をおいた坪谷さんの熱意と病後の身ながら講演会を引き受けてくれた灰谷健次郎さんの深い友情。そして、その主人公の人物像だという理論社を創設された小宮山量平さんもご高齢ながら駆けつけてくださるという。
 「いのちは まるい」をテーマにして坪谷さんの作品と本の展示もさることながら、灰谷さんの講演もご期待ください。

■角川文庫 ■理論社
 
灰谷健次郎 著
早春の海岸にてバス停に降り立った老夫婦。画家である夫・籐三は妻のことをハルちゃんと少女のように呼ぶ。ふたりは行き先を決めず気ままな旅に出たのだった。旧友と呑み交わし、その孫と語らう心躍る時間。だがふたりの胸には秘められたある想いがあった…。男と女はいかに寄り添い、そしていかに死を迎えるのか?さまざまないのちの繋がりを見つめ直す旅。こんな余生をおくりたいと思わせる、穏やかに満ちてくる日々をやすらかに描いた灰谷文学の結晶。