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2005年11月15日 新潟日報 掲載

あーとぴっくす
 

東洋的な深いイデアを内包

小林久子 展
(2005年11月15日〜23日 画廊 Full Moon)


西村冨彌(画家)
「The Wheel of Life」

 小林久子はニューヨークに在住するカラーフィールドのアーティストです。随分早くから、その早熟な資質は注目されていました。多感な世代に、ちょうどウーマンリブが賛美された時代と合致して、いち早く自立した制作意識をキャンバス上につくり上げたのも小林久子でした。作品一面に流れる色彩の波は、知ってか知らずか東洋の深いイデアが内包されているのが彼女の作品の特徴ともいえます。
 例えば、ニューヨークのあの広いスタジオでの水面に落ちた花弁のつぼみが段々に開花していくような波紋のフォルム、または、海底にゆられる水生植物の呼吸のようなエコロジカルな感性の連鎖が彼女の中で繰り返し繰り返し、制作されています。彼女のおびただしい作品群のなかに一面が黒におおわれたマーク・ロスコを想わせる連作があります。下地のすき間から垣間見えるインディアン・レッドの切り傷のような小さな班点は彼女の心に宿る情熱のこぼれ火でしょうか?
 タイトルは「失われたパスポート」。小林久子の空間意識が、彼女特有の美質として、東洋的アイデンティティーを啓示しています。そこには日本人の持つ内省性と、彼女の神秘的な気品が不思議な融和を保ちながら語りかけてきます。
 また、小林久子の作品には、小さな変化が見られます。空間描写がこれまでの有機的なモチーフを通して心の情景を描いてきたことに対して、現在の作品では漠然とした光の量の中にある存在が小林久子の昨今の姿のように浮遊しています。