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2006年3月22日 新潟日報 掲載

あーとぴっくす
 

興味わく 作家と作品のズレ

大桃洋三展「語りだすカタチ」
(2006年3月24日〜4月2日 画廊Full Moon)


赤沼潔(長岡造形大学教授)

 静かに原型と対話をしている大桃君を目にすることがある。静寂と緊張感をはらみながらゆったりと他者を拒否している。作品を見るとそこにはちょっとズレを感じる。こちらはゆったりと見るものを招き入れてくれているようである。
 大桃君は、ブロンズや真鍮の金属の鋳造を基に作品を展開してきた。卒業制作は植物的なものをイメージし、真鍮の鋳物を研磨したシャープな造形を提示していた。修了制作は躍動感あふれた動的な大型の作品で自身の身体的限界を確認でもしているかのようであった。
 このころから鋳物の制作上の工程で内部を空洞にすることに造形的に疑問を感じ始め、この修了作品では内部を意図的に見せる試みをしていたと思う。これ以降も内部の問題、また視覚を決定づける表層についてそれぞれの作品の中に課題として取り込みながら発表を続けてきた。
 今回発表する作品もその辺の問題を含みながら生命の根源的な力強さにひかれて制作したとのことであった。美術界の現状や作家のことなどよく勉強しており、制作する姿勢もあまりぶれがなく熱心な青年である。だが作品は、ユーモラスでもあり、情念的でもあり、いろいろと語り始めてくる。
 この本人と作品のズレが、また、より興味をわかせられる要因であるように思える。今回は、鋳物の質感というよりもその原型である鋳造用のワックス(蝋)の質感を捉え、そのワックスの話を聞きながら成立した作品群である。