2001年6月

2001年7月の絵屋

  新潟絵屋あんない 作家INDEX Blog  

 


2001年6月2日〜10日

「玄生」 漆
 

渡辺信二(わたなべ しんじ)
■新潟県朝日村生まれ。漆で四十年。県展無鑑査、県展委員。日展会友、日本工匠会評議員、県工芸会副会長

黒と朱の詩。漆で壁面作品はあまり目にすることがない。堆朱や蒔絵といった器物を華飾する表現が圧倒的に多いからだろう。しかし渡辺信二さんは「漆の美しさは平面から発せられる」と言う。漆の持つ、色合い、質感、深みを最大限に引き出し、その美しさを表現するには「平面作品」壁面で見ることが一番適していると。
漆板(キャンバス)は、漆の厚さの影でより線を強調させる。数えきれないほど漆を塗り重ね、それを削り、研ぎ出し、あるいは刀で引っ掻き、多彩なマチエールを引き出す手法を試みている。朱は日本の祭ごとの原点であり日本の彩色の原点だと言い漆黒は「黒という色」ではなく「玄」だと氏は言う。広がりのある深いしかし澄んでいる無光の「玄」、まさしく無限な宇宙そのもの。作品は、そんな日本古来の「朱」と宇宙の如き「玄」を基調に心象イメージを創り上げ、そして漆という素材の持つ個性を最大限に引き出す事で、漆の本来持つ美しさをつねに追求している。
「漆はすごい材料なんだよ、美しくて奥が深いんだよ」といって漆のことを話してくれる渡辺信二さんから、漆に対する熱い思いがいつも確かに伝わってくる。 (伊藤純一)
 



 


2001年6月12日〜20日
 

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井上有一(いのうえ ゆういち)
■1916年東京に生まれる。上田桑鳩に師事。52年既成書壇の権威主義を批判し、個に立脚した書の確立を求め森田子竜、江口草玄らと「墨人会」を結成。エナメルで描いた抽象作品で注目される。57年サンパウロ・ビエンナーレ出品の頃から墨と筆による文字(書)に回帰し、以後「花」「貧」などスケールの大きな一字書をはじめ、戦争末期の東京大空襲の体験を書いた「噫横川国民学校」など数々の傑作を描き、海外でも高く評価される。85年没。死後国内外で多くの回顧展が開かれたほか、2000年には『井上有一全書業』全3巻が刊行された。
 

十数年前の東京での「花にかこまれた井上有一」展の印象が忘れられない。会場へは展覧会の仕掛け人、海上雅臣さんに別件で会うために行ったのだが、蝶のように花の字が宙に浮かぶ光景に平手打ちされ、海上さんの笑顔とともに、夢うつつのあわいにたち現れた幻影のように、今も思い出される。
黒い「字=記号」である「花」の群れに、私は様々な色と香りにあふれた花園の空気を感じた。井上の書は一文字一文字が、有一という人の内面の表現であることを越え、それ自身、個体としての癖と体温と身振りをもって動きだしている。現実の花も色や形の美しさを貫き、一瞬の空隙に燃えあがる炎のような生き物の気配がにじむから、同じ生き物である人を共鳴させる。その無音の共鳴音があのとき、私の胸に突然響いたのだ。
海上さんのご好意で、新潟絵屋誕生一周年の場を、思い出深いその井上有一の「花」たちで飾らせていただくことになった。        (大倉 宏)

なぜ?くりかえし「花」を書いたのか
1970年に井上有一と出会って以来、その理解者、後援者となり、有一の死後一貫して有一の仕事の価値を評論活動、展覧会のプロデュース、シンポジウム開催、カタログレゾネ(『井上有一全書業』)の編集刊行などで国内外に精力的にアピールし続けてきた海上雅臣氏が、有一の「花」の書について語ります。
■講師:海上雅臣(美術評論家・UNCA TOKYO代表)
■会場:新潟市美術館 講堂
■参加費:500円(絵屋会員400円)
  ※申込みは不要です。直接会場においでください。


 


2001年6月22日〜30日

「河畔」 2001年 パステル、紙
40.9×31.8cm
  

橋本直行(はしもと なおゆき)
■1962年寺泊町生まれ。88年創形美術学校卒業。93年東京セントラル美術館油絵大賞展佳作賞。94年アトリエ我廊(新潟)、95年アムスなにわギャラリー(大阪)、97年ギャラリーはせがわ(東京)、2000年新潟大和6階ギャラリーで個展。99年寺泊養泉寺本堂壁画制作。ほか個展、グループ展多数。寺泊町在住。

橋本直行の風景には、冷やされた銀の肌合いがある。癖や個性を、際立たせるのではなく、むしろ周到に消去し、レンズのように硬く、冷たい目に徹しようとする画面がけれど独特なのは、その感触にある。
水の気配あふれる新潟の自然というモチーフは、橋本ひとりのものではない。横山操や佐藤哲三はじめ数々の絵(や写真)を私たちは知っている。でもそのどれとも橋本の絵は違う。だから一瞬、これは新潟なのかと疑うのだが、見つめていると、ああこれも紛れもない私たちのいる場所だと思えてくる。
私が見ていて、見ていなかった土地の顔が、橋本の冷たい銀の目を通過して見える。南ではなく北に、それも大陸にじかにつながるような自然の面差しの、寡黙で、透明で、湖面のように光沢のある魅惑的な目が、橋本の絵の中から、私をきまじめに見つめ返している。 (大倉 宏)

 
   

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