私たちを囲むその他として、食器や家具、装身具などの中に、伝統的な工芸素材（生物材と人工材に別けられる）を使ったクラフト（工芸）製品を見つけることができるだろう。これらは個人工房や地場産業などで手加工中心に作られ、素材の持ち味と職人技が造りだす美しさと使い心地が特徴だ。また、伝統工芸や美術工芸は、日本の長い歴史が育んだ世界に誇る文化といえる。しかし、生活道具のクラフトは道具以上でも以下でもなく、装置には成り得ない。原始の人々が両掌を合わせた形に似せて作った人類初の土器も、現代の陶芸家が焼いた器も大差はないだろう。
肌の温もりが伝わるクラフト製品には、作り手と使い手のメッセージが宿り、時間を超越して遠い記憶を呼び覚ますような懐かしい魅力がある。

さほど遠くない昔、日本人は木と土と紙の家に住み、肌に近いところで自然を感じながら生活していた。やがては朽ち、大地へ還るものたちと暮らし、うたかたのような命のはかなさ、もののあわれさを見つめることで慈しみ、愛でる心を持てた。日本的な生活習慣や「作法」「型」などの美意識は、自然との関わりの中から生まれたものだと思う。
今、私たちは20世紀的な豊かさと錯覚した物質的充満、過剰な需要と供給の代謝の結果である「使い捨て」を改める必要がある。地球は収奪資源ではないし、環境への配慮は必須だ。作り手たちの責任は重い。便利で快適な暮らしは全ての人の願いだし、私たちは昔の生活には戻れない。しかし、かつての日本人が持っていた生活感覚の基盤は取り戻さなければならない。
生活を支えてくれる様々なものたちが、愛情を持って使い込まれ、手入れをして長く受け継がれていくものなら、私たちの暮らしは本当の豊かさを取り戻すことができるのではないだろうか。