2008年9月


2008年8月の絵屋

2008年10月の絵屋

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2008年9月2日〜9月10日

企画 大倉宏  協力 名古屋画廊

浅野弥衛(あさの やえ)
■1914年三重県鈴鹿市生まれ。中学卒業後職業軍人となり、傍ら自宅隣に住む詩人野田理一の影響を受け画家を志す。戦後は会社勤めの傍ら美術文化協会に所属(63年退会)。42歳から絵に専念。1950年代より“ひっかき”という独自の技法により、抽象的なモノクロームの作品を多く描く。70年代以降は「ブルーチェス」シリーズなど美しい色彩が、線と響きあう世界を生み出した。生涯を鈴鹿の生家で過ごし、1996年に没。

 

←「作品」 1986年 オイルスティック、紙 70×50cm

12年前三重県立美術館で開かれた浅野弥衛展の厚い図録が、手元にある。展覧会を担当した東俊郎さんから送ってもらったもの。図版の瑞々しい線と色に魅了され、若い現代作家かと思ったら大正生まれの作家とあって驚いた。こんな作家がいたのかと思った。
同世代で、具象から抽象に変わっていった画家はあるが、浅野は最初から抽象だった。西欧の抽象画を若い日に見て「驚きはなかった。(こういうものは)日本に昔からあったんや」と感じたという話が面白い。その絵の魅力は何といっても線の生命感だろう。力強さ、とは違う。短いのも長いのも、顔を近づけて見るとひとつひとつの線が、自分の目や耳や肌で何かを(例えば見つめる私の視線を)感じているように見える。こうした線の内面からにじみ出す生気が、絵にやわらかな強さと気品、明るさを生み出している。
希有なこの画家を新潟で紹介できるのが夢のようで、うれしい。(大倉 宏)


 

2008年9月12日〜9月20日

企画 大倉宏

片桐翠(かたぎり みどり)
■1978年新潟市生まれ。99年青山学院女子短期大学英文科卒業。渡英。ウェストミンスター大学(ロンドン)で映画とイラストレーションを学ぶ。06年創形美術学校造形科卒業。第1回パリ賞受賞。副賞でシテ・インターナショナル・デ・ザール(パリ)に8か月滞在。フランスで個展開催2回。07年知足美術館にて個展開催。

 

←「居酒屋」 2007年10月 油彩、キャンバス F30号

片桐翠のカラフルな絵の一見普通そうな、けれど風変わりな味は、なかなか目にしみてくる。何の味かわからないので、舐め続けていたくなる飴のようだ。と昨年の知足美術館の個展会場を歩いて感じた。絵はがきや写真で絵を見ていた時には分らなかったことだ。
今回の新作で言うと、彼女がよく描くというマリアの唇の端がすこしめくれている。元になった小さいメキシコ製という聖母像を見せてもらうと、たしかにそのようなめくれが、認められないこともない。画家は恣意(しい)的に描いてはいないのだが、絵の方を見るとそのめくれた唇から「姐さん薙刀貸してくんねえか」なんてセリフがぽろりと出てくることが、ないこともないように見える。「ないこともない」というむずむず感は、歯を見せて笑う友人の肖像や、化粧品の瓶などを描いた絵にもあり、そのどこか肉感的でもある、そこはかとない蠱惑(こわく)感が、とても面白い。 (大倉 宏)

 


 

2008年9月22日〜9月30日

企画 大倉宏

藤原祥(ふじわら しょう)
■1950年島根県松江市生まれ。サン・フェルナンド国立美術学校(スペイン/マドリード)卒。77年タラベラ・デ・ラ・レイナ賞名誉賞受賞。グループ展に95、2002年「21+ー展」(O美術館、東京都美術館)、91-97年「アジア交流展」(ソウル、香港ほか)等。個展は80年島根県博物館、82年ギャラリー檜(東京)、92年ギャラリーHera(ストックホルム)、93年ギャラリー睦(千葉)、03年ニッチギャラリー(東京)、07年新潟絵屋等。

 

←「Landscape(夜)」 2008年 30×35cm

藤原さんの印象的な新作の、やわらかい煙のような、ごわごわしたヒゲのような、木炭の黒の広がりを見ていたら、「ぞぞ」という言葉がふいと浮かんだ。なにか重いものが「ぞぞぞぞ」と引き摺られた跡のようでもあり、石綿のようなものが肌にふれて「ぞぞぞ」とする感じもある。
言葉が浮かんで、これも思い出したが、「ゾゾ」は「くまのプーさん」に出てくる謎の生き物でもあった。プーとコブタがゾゾをつかまえようと仕掛けた罠に、プーがかかってしまう話で、ゾゾの正体はついに分らない。藤原さんの黒い広がりも、正体は分らないが、分らないからこそ、なんだか落とし穴を掘って捕まえてみたいような気を起こさせる。
プーは私の個人的連想だけれど、藤原さんの近作にはどこか、そんな物語の空間にも水脈を通じはじめたような気配がある。にじんだ、太い、低い声のような線もいい。藤原さんの絵の「広がり」は続いている。(大倉 宏)

 


 


<総会・会員交流会>
7月19日(日)、砂丘館にてNPO法人新潟絵屋の「第4回総会」を行ない、平成19年度(07年6月1日〜08年5月31日)の決算収支報告、新年度予算案を審議しました。終了後は、年に一度の「会員交流会」を開催。会員の方のご意見や作品購入時のエピソードなども聴くことができ、今後の活動に大変有意義な時間となりました。( 石 )
<外山文彦展(7月12日―20日)>
初日にオータムジェラートバンドのライブ(写真)を開催しました。バックの作品は舞台セットのようにぴったり!(I)
<大高正嗣展 (8月2日―10日)>
初日にレセプションパーティを、最終日に酒蔵の方が来て「麒麟山 酒の会」(吉川酒店主催)を開催。作品に囲まれて作家と交流する、お酒が効いた至福のひとときを過ごしました。(M)


絵屋便、DMの配達を担当する絵屋運営委員・田代のはみだし連載コラム
タシロ便がゆく ―来る人、いない人編 その3―

そんなちょっとしたリゾート気分のまま、古い蔵を改装してつくった2階のギャラリー空間へ。でも気持ちは展示物の上にのらず、ふわふわ。その時、突然、下の方からばたばたとあわてて駆け上がってくる足音。ちょいとせっかちな画廊主が忘れ物でも取りに来たのかな〜とそちらに目をやれば、足音はぴたりと止み、そこには誰もいない。(つづく)
タシロ…田代早苗(俳人・新潟絵屋運営委員)


   

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