9月2日wed―10日thu
vol.468
イギリスの高名な美術史家の大著「芸術と幻影」は、平らな面にどーして奥行きが見え、人や空や船が見えるのか、という謎をめぐってあれやこれや書かれた本だった。
岡谷敦魚の「遠方の丁字路」シリーズは「空間的な遠近感というよりも、むしろ平面的な色面構成」を考えたものだそうで、つまりT字の道を描くと ̄が「遠方」になり平面がゆがむ。この<ゆがみ>を正す、直してみようとする試みであるらしい。クレヨンを横に押し付けて描く。半透明な和紙を重ねる。それでも足りず線にピアノ線を重ね、貼ったことが分かるようテープで貼る。手を変え品を変えつっかえ棒をしたわけで、それでもT字は彼方に傾斜していく。行儀のわるい言葉や悲鳴が弾けでる絵は、すこぶるにぎやかで、生きている。(企画 大倉 宏)
岡谷敦魚(おかのや あつお)
1971年東京都生まれ。94年武蔵野美術大学油絵学科版画コース銅版画専攻卒。04年東京芸術大学大学院美術研究科造形学美術教育修了。99年~ギャラリー21+葉(銀座)、Switch Point(国分寺市)、画廊 編(大阪)、mu-an(長岡市)、楓画廊(新潟市)などで個展。グループ展多数。現在、長岡造形大学美術・工芸学科准教授。長岡市在住。
PHOTO:「遠方の丁字路」インタリオ・リトグラフ・スクリーンプリント・ピアノ線・雁皮紙/版画紙