渡辺隆次 展

11月2日Thu―10日fri

vol.541 作家在廊日:11/2~5(予定)

 「宮廷画家」という言葉が、渡辺隆次の新作を見て、浮かんで、びっくり。
 絵に漂う不思議なエレガンス(優雅さ)に反応してのことらしい。部分的には、おなじみの胞子紋(置かれたきのこが紙にこぼす胞子の紋様)や、数年前から登場したスパッタリング(霧吹き技法)によるクリップや鍵のシルエットに、木の葉や実や渡辺隆次風の有機的かつ無機的な文様が描き込まれた画面だが、それらが渾然と解け合い、なめらかで、優雅で、美味な空気がかもしだされている。
 渡辺が八ヶ岳の麓の山里に暮らして40年。豊かな自然環境に「開発」が進行し、心痛むことも多かったと聞く。けれどそこはやはり宮廷でもあった。美しさと豊かさに支えられた空間という意味である。山里宮廷のその濃厚な香りを見事に放って、絵がみやびに輝いている。
(企画 大倉 宏)

渡辺隆次

渡辺隆次(わたなべ りゅうじ)
1939年東京都八王子生まれ。武蔵野美術学校(現武蔵野美術大学)卒、東京学芸大養護科修了。77年から八ヶ岳麓のアトリエで制作を続ける。個展多数。92~99年武蔵野美大特別講師。99~2003年武田神社(甲府)菱和殿天井画、04~05年同神社能楽殿の鏡板絵を制作。著書に『きのこの絵本』『山のごちそう』『八ヶ岳 風のスケッチ』(筑摩書房)、『水彩素描集』(深夜叢書)、『花づくし 実づくし―天井画・画文集― 〈一〉〈二〉〈三〉』(木馬書館)、『山里に描き暮らす』(みすず書房)がある。新潟絵屋では06年12月・09年11月・13年10月に個展、2013年は角田山妙光寺と2会場にて同時期開催。近年は依頼を受けて制作した巨大なうなぎの絵馬を神社に奉納した。

PHOTO(上): 「胞子紋」2014〜16年 ミクストメディア/紙 34.8×23.8cm
PHOTO(下): 「胞子紋」2014~17年 ミクストメディア/紙 34.8×23.8cm

黄金の山の日記から アンティエ・グメルス展

ギャラリ―みつけ 12月22日fri―2018.1月22日sun

新潟絵屋 10月22日sun―30日mon

vol.540

 6年前、長年暮らした新潟から、生まれ故郷の南ドイツに戻ったアンティエ・グメルスは、森の中で暮らしはじめた。ドイツの田舎では、今もいろいろ不思議なことが起こるらしい。あるいはアンティエ・グメルスが住むところにそれが起こるのかもしれない。ともかく、その不思議な出来事のあれこれを、長くご無沙汰した新潟の私たちに知らせたいと、墨絵の絵日記のような絵をこの夏、描きだし、現在も進行中である。
 野うさぎ、ニワトリ、象(!)、シカ、フクロウ、妖精たちの勇躍する世界は、まさしくメルヘンだけれど、どれも実際にあったことで「証拠」もあるとのこと。墨絵だけでの展示は2001年の新潟絵屋での初個展以来になる。妖精画家の健在を、なにより喜びたい。
 絵屋から巡回するギャラリーみつけ*の会場では、同時に制作された抽象の近作もあわせて展示する予定。
(企画 大倉 宏)

Antje-Gummels2017

「これは、ヘンリーです。
庭に住んでいらっしゃる、巨大野ウサギです。
私と同じように、タンポポの葉っぱが、大好物です。
いっしょに仲良く分けています。
タンポポは十分、ありますから。」

アンティエ 黄金の山の日記から

「今年の春、急に庭にあらわれて、私の一番珍しいチューリップを、遠慮なく食べてしまった豪華な金色のキジです。
私も、ネズミさんも、ナメクジさんも、岩ガエル王子様も、言葉がでなくなるほど、びっくりしている間に、金色のキジは「ありがとう」とも言わずに、去っていってしまいました。
それにしても、私たちは、キジが遊びにいらっしゃって下さって、光栄だし、感謝もしております。」

Antje Gummels(アンティエ・グメルス)
 
1962年旧西ドイツ・レーゲンスブルグ生まれ。78年イタリア・サンレモへ移住。87年に来日し新潟県巻町(現新潟市西蒲区)に住む。92年麻布工芸美術館(東京)、92・94年創庫美術館(新潟)、96年北方文化博物館(新潟)、98年ストライプハウス美術館(東京)、2001・05・07・09・11・14年新潟絵屋、07年砂丘館(新潟)、05年アートフロントギャラリー(東京)、画廊Full Moon(新潟)、07年ギャラリーARKA(ウラジオストック)、07・09・17年ギャラリー128(ニューヨーク)、08年中之沢美術館(前橋)、ギャラリーアートコンポジション(東京)、10年游文舎(柏崎)、11年ギャラリーゆうむ(新潟)で個展。09年大地の芸術祭、11~16年観○光ART EXPO(京都、鎌倉)、会津漆の芸術祭に出品。現在ドイツ在住。

関連情報

アンティエ・グメルス展「黄金の山の日記から/Dance of the Elements」

2017年12.22[金] ~2018年1.21[日]

会場: ギャラリーみつけ1F 展示室1・2
見附市昭和町2-4-1 TEL.0258-84-7755 ▶ホームページ
10:00〜22:00(最終入館21:30)
休館日:月曜日(ただし1/8開館)、12/28〜1/4休、1/9休

■イベント 1.13[土] 14:00〜15:00 
「アンティエ・グメルスの絵を語る」(話し手:大倉宏/無料/会場:ギャラリ―みつけ)
アンティエ・グメルス Dance of the Elements
抽象の新作「Dance of the Elements」シリーズは、ギャラリ―みつけのみでの展示となります。

▶みるものとよいところ 会場のようす その1

▶みるものとよいところ 会場のようす その2

小林久子展

10月12日thu―20日fri

vol.539 作家在廊日:10/12~14

 小林久子の画面は大きな「動」感に満ちているが、あたかも潮の変わり目の海のように、そのなかで、すべてが一瞬、静止したような作品がある。動が動へ変化する転換点の「静」。「動」の渦中では見えなかった淵が見え、聞こえなかった音が聞こえる。その刹那の淵は、深く、音は重く、心にしみる。しみる。
 小林のこれまでの実人生を、新潟で聞かせていただいたことがあった。キャビンアテンダントの時代。幾度かの結婚と離婚。相手のひとりが、あるときから、背に翼をつけて生きはじめたこと。アメリカでの画家としての出発。自活のために始めた宿泊業……。
 小林の絵にそのような実人生のドラマは描かれていない。描こうともしていない。けれど実人生を生きるように、「絵を生き」てきた人の絵の前で、私の実人生が、絵を見る時間を踏み抜け、吸い寄せられていく。
(企画 大倉 宏)

小林久子展

小林久子 (こばやし ひさこ)
東京都生まれ。プラット大学院を卒業。N.Y.Greenwich Villageのロフトに住み、創作活動を開始。その後マンハッタン・南ソーホーを拠点に制作活動を続け、世界各地で展覧会を開催。近年は、パリ日動画廊、モスクワ美術館で作品を発表。ジョージス・バーゲスギャラリー(Soho・New York)では毎年個展開催。ロシア国立オリエンタル美術館などに作品収蔵。ニューヨーク在住。 www.hisakokobayashi.com

PHOTO上:「I want to be in the same space with you(あなたといつも一緒にいたい)」2017年 油彩/紙 46.0×61.0cm
PHOTO下: 「Maitri, Generous Compassion(限りなく優しく)」2017年 油彩/紙 61.0×76.0cm

作家の声を聞くギャラリートーク
10.12[木] 19:00〜20:00
聞き手:大倉 宏/参加料:500円/申込不要

…描くことは自分の感情の素直な表現であり、心の中にあるいろいろな感情を形作っていくプロセスでもあります。自然界あるいは自身の中にある混乱を秩序だててもくれます。この小さな絵画から大きな世界、宇宙の探求、それが私の求めるものです。私の絵は抽象画ではありますが、心の中を形に現したものなのです。 
(小林久子)

小林久子

松川孝子展

10月2日mon―10日tue

vol.538 作家在廊日:会期中毎日15時~

 松川孝子の新潟絵屋での個展は5回目になる。
 松川の絵は抽象であり、同時に風景である。森(=垂直)と海(=水平)のイメージを、その絵はくりかえし語り、奏でてきた。以前の森は、奥が暗く深いヨーロッパの森だったが、垂直の形が振り子のように揺れ出した近作のそれは、どこか新潟の町のへりに、壁のようにそびえる防砂林を思わせる。すぐ先に揺れさわぐ海があることを告げるような、風と光の気配が魅力的だ。
 もうひとつの、不定形の形が水平に積層するシリーズは、たしかに〈砂丘〉を連想させる。まったく違う構成なのに、ひとつながりの絵に、見えてくるのは、どちらの絵の底にも、きっとひとつの、あるいはひとつに融けた、内なる画家の原風景があるからだろう。その「原」石のきらめきが私の目を、体を、いつもゆさぶる。
(企画 大倉 宏)

松川孝子展

松川孝子 (まつかわ たかこ)
1945年新潟市生まれ。日本女子大国文科卒。国立ウィーン応用美術大学卒。73年渡仏。75年よりウィーン在住。ヨーロッパ各地の展覧会に出品。アルベルティーナ美術館(オーストリア)、グラフィック美術館(ノルウェー)、Petit Format 美術館(ベルギー)等に作品収蔵。新潟では95・2001年大和アートサロン、04・06・12・14年新潟絵屋、06年砂丘館で個展開催。オーストリア芸術家協会会員。 www.takako-matsukawa.at/home

PHOTO上: 「海に臨む」2017年 ミクストメディア/キャンバス 50.0×60.0cm
PHOTO下: 「森にて」2017年 ミクストメディア/和紙 31.0×58.0cm

作家の声を聞くギャラリートーク
10.7[土] 18:00〜19:00
聞き手:大倉 宏/参加料:500円/申込不要

厚地富美子展

9月22日fri―30日sat

vol.537

 厚地さんの個展は絵屋で3回目。最初は木版画、2回目はガラス絵、そして今回はその両方の新作を展示することにした。彫る力や工程の長さが壁となりガラス絵に移行し、絵の具で描くことに熱中していた近年だったが、最近、木版画を再開された。
「なんだかおかしいでしょう」
 厚地さんは笑う。新作の木版画は、ブランクが一層の壁となっているそうだが、相変わらず魅力的だ。独特なおかしさはなんだろう。絵は、作者を通過して、思いがけない色や形となってあらわれてくる。そのズレの面白さ、どうにも愛らしい。肩の力が抜けるような、ほぐしの効能がある。
 めずらしく、絵屋のショップに暮らす人形たちが、厚地さん宅で夏の日を過ごした。ひょんなことから絵のモデルを果たすことに。さて、どんな絵ができてくるだろう。それもおたのしみに!(企画 井上美雪)

厚地富美子_1709

厚地富美子 (あつじ ふみこ)
1936年島根県松江市生まれ。47年より新潟市に住む。75年新潟市中央公民館の年賀状講座に参加し、木版画を始め、鈴木力氏の指導を受ける。新潟市市展市長賞、新潟県展県展賞(2003年)、奨励賞(86・96・00年)を受賞。2008年たけうち画廊(新潟市)、10年ギャラリー十三代目長兵衛(柏崎市)、11・15年新潟絵屋で個展開催。グループ展「遊」出品。

PHOTO(上): 
PHOTO(下): 「貝」2017年 木版画/和紙 21.0×28.0cm

華雪展 「顔」

9月12日tue―20日wed

vol.536 作家在廊日:9/12.13.14.16.17終日 9/15午後 9/18午前

 月刊誌「ジャフメイト」の華雪の連載「文字と眼差し」が面白い。
漢字の原点、甲骨文字。絵に近い最初の姿を思い浮かべた「誰か」に想像をめぐらせ、自分の体験や記憶と重ね合わせる。語る道具になった文字自体が、話し出すような不思議な心地。
近作「顔」は、ピカソの晩年の自画像を見たのが、ひとつのきっかけになったという。その顔は「極彩色のパステルで描かれ」「色は混ざり合って濁ることも厭わず、紙の上でぶつかり合」っていた。顔は時に感情や思いを表すが、華雪によれば「顔」の字は本来「化粧を施した顔をあらわし」「現代中国語では色合いを指す」。化粧が顔を整えつつ、何かを隠すように、顔は隠す場所でもあった。
人は表し、隠し、人生を送る。ま反対の力がぶつかり、尖った波頭にぬめり出たような「顔」の書が、すごい。(企画 大倉 宏)

華雪展 「顔」

華 雪(かせつ)
1975年京都府生まれ。書家。92年より個展を中心にした活動を続ける。〈文字を使った表現の可能性を探る〉ことを主題に、国内外でワークショップを開催。舞踏家や華道家など、他分野の作家との共同制作も多数。刊行物に『石の遊び』(2003年平凡社)、『書の棲処』(06年赤々舎)、『ATO 跡』(09年between the books)など。最近ではJAFの機関誌「JAF Mate」に書とエッセイを連載していた。『コレクション 戦争×文学』(集英社)、『木の戦い』(エクリ)をはじめ書籍の題字なども手がけている。「水と土の芸術祭2012」(新潟市)、「みちのおくの芸術祭 山形ビエンナーレ2016」に参加。新潟では新潟絵屋、砂丘館、二宮家米蔵、エフスタイル、室礼などで展示を行ってきた。 http://www.kasetsu.info

▶みるものとよいところ 会場のようす

PHOTO(上): 「顔」2017年 墨/和紙
PHOTO(下): 「顔」2017年 墨/和紙 33.0×23.5cm