戸田勝久展

11/13[土]―28[日]

niigata eya exhibition vol.621
作家在廊日:11/13・14・15 *15日は午前のみ

 高橋由一など、明治時代初期の人たちは「西洋画」の学習にあたり、ほぼ同時に技術の伝わった写真も教科書にしたらしい。西洋画の特質を由一は「写真(真実を写すこと)」と呼び、それまでの日本の絵は、遊戯的であり、新興国家日本建設の役に立たないとしてしりぞけた。写真のような絵は、その後、写実と言い換えられるようになった。
 戸田勝久の絵は、写実というより、カメラアイのような描写ぶりからどこか「写真」的と言いたくなる。が、その内容はたいへん遊戯的で、かなうことなら高橋由一に見てもらいたい。シュルレアリスム風の内面探求とも、コンピューター処理された不思議な写真とも違う。「絵そらごと」という言葉が、一番近ぴったりとくる。
 「絵そらごと」の絵は、国家の、もっと平たくいえば世の中の役にはたたない。でもそれは、江戸期の絵にあった「余裕」を思い出させる。気候変動、コロナウィルス、経済不安…余裕がどんどん失われていく近代のどんづまりのような時期に、近代の外皮に前近代の空気をくるんだ、こうした絵を呼吸することが、私には必要だ。
 以上は、昨年4月に開催の予定だった展示のために書いた文章である。そのときは案内状も発送し、展示のやりとりをしている間に新型コロナウイルスの感染拡大があれよあれよと広がり緊急事態宣言が全国に発令された。以来マスクをしつづける生活が1年半続き、まだ続くらしいいま、戸田さんの絵を、せめて目の底まで呼吸して絵そらごとの海を泳ぎまわりたい。(企画者:大倉 宏)

戸田勝久(とだ かつひさ)
アクリル画を井上直久氏、銅版画を山本六三氏、南画を津川蕃氏に学ぶ。83年大阪にて初の個展。以後、京阪神、東京、パリの画廊で作品を発表する。木版画、銅版画、水彩画、アクリル画で細密な幻想風景を描く。句集、詩集などの書物の装釘も多数。エッセイ集『書物の旅』(2008年水仁舎刊)、画集『旅の調べ』(2019年刊)など。
Instagram 摘星山房写真日乗 @todap54

PHOTO上 :「あなたへ」 アクリル/キャンバス 41.0×41.0cm

戸田勝久展

PHOTO: 「Andante」 アクリル/キャンバス 72.7×72.7cm

戸田勝久展

PHOTO: 「海の響き」 水彩/紙 12.0×12.0cm

戸田勝久展

PHOTO: 「いつかの散歩道」 アクリル/キャンバス 41.0×41.0cm

戸田勝久

PHOTO: 「春星巡行図」 墨/キャンバス 41.0×41.0cm


これまで装釘した書物も展示し、『旅の調べ』『書物の庭』『旅の手紙』『風の調べ』をお取り扱いいたします