田村憲一 展

3/1[火]―13[日]

niigata eya exhibition 626

 田村さんが勤め、私が数十年前に卒業した高校の正面の坂は「乙女坂」と称されていた。それは女子校だった時代のお話で、しかも私の在学中は大根坂と呼ばれていた。日々、太く逞ましい女子たちの足がエネルギッシュにゆく様は、乙女という嫋やかな単語がどうにもそぐわない。
 高校時代の私は考えた。そもそも乙女とはこの世に存在するものなのか。それは人々(特に男性)の心の中にしか居ない、一角獣や人魚のような、ロマンティックな幻獣なのではないか、と。
 しかし田村さんは内にこの幻獣を棲まわせている。作品に表れる独特のピンクとブルーは印象的で可憐。画面を広がるグレーは柔らかで甘美で優しい。どこかの詩人が「青い花よ萎れるな」とうたった青春の生命の儚さとみずみずしさが画面に溢れる。今回の作品展は髪の毛がモチーフとの事で、線は水のようにも流れ渦巻き、しとやかに編まれたかと思えば奔放にほどける。蒼ざめて透明な、成長と完成を拒む生命の若々しさ。
 そういう概念が、乙女として若い女性に託された現代では絶滅寸前なのかも知れない。昔だって人が思っているほど沢山いたワケじゃないと思う。でも田村さんの世界には、ちゃんと存在していて、色彩の向こうで静かに佇んでいる。(企画 田代早苗)

田村憲一(たむら けんいち)
1982年愛知県生まれ。2004年名古屋芸術大学美術学部日本画コース卒業。2007年筑波大学修士課程芸術研究科修了。2011~20年十一月画廊(銀座)、2015~20年 ハートフィールドギャラリー(名古屋)、2018年、20年新潟絵屋で個展。新潟市在住。

PHOTO(上):「魂象(こんしょう)」2021年 日本画 116.7×91.0cm

田村憲一展
PHOTO:「横」2021年 日本画 72.7×60.6cm

田村憲一展
PHOTO:「裏結(うらゆい)」2021年 日本画 33.3×24.2cm

田村憲一展
PHOTO:「表(おもてゆい)」2021年 日本画 33.3×24.2cm


▶ 田村憲一 展 2020年
▶ 田村憲一 展 2018年