「墨・絵」展

 2016年1月11日mon/holiday―20日wed

vol.482

 学生のころ、講義で墨絵(水墨画)の誕生の物語を教えられた。
 中国の唐代末期、世の中が混乱した時代に奇矯な画家たちがあらわれた。酒を飲み、歌い、騒ぎ、興にのって墨を紙にぶちまけ、手や脚でなすり、長髪の毛も筆にしてあばれまわる。ところが絵ができあがり、画家がわずかに筆をいれると墨の跡は見事な山水画になり、墨汚(ぼくお)をいささかも残さなかったという。アメリカの抽象表現主義の画家たちの制作ぶりと重なる逸話に、そのとき、この目で見たような気のした画家たちの「制作光景」はいまも心に焼き付いている。
 墨絵は禅宗とともに日本に入り、盛衰をくり返して現在にいたる。モノクロームという地味な一面をもちながら、心を妖しく揺らす魅力があるのは、その起源に、上記のような「自由」そのものの体験があるからではないだろうか。色彩画家である橘三紀のアトリエで、思いがけず墨一色の絵を見せられたとき、新潟絵屋で発表している画家たちの、墨の絵だけを並べてみるというアイディアが浮かんだ。
 それから日をおかず、5人の画家たちにお願いして開催することになった 「墨・絵」展。色のない空間にどんな自由の風が吹くだろう。
(企画 大倉 宏)

▶みるものとよいところ 会場のようす

料治幸子 「ドローイング」
料治幸子 「ドローイング」2013年 墨・紙 39.0×27.5cm

橘三紀 「バラ図」
橘三紀 「バラ図」2015年 墨・紙 63.5×48.6cm

渡辺隆次 「エノコログサ」
渡辺隆次 「エノコログサ」2013年 墨・紙 52.5×36.5cm

しんぞう 「神の犬」
しんぞう 「神の犬」2015年 墨・紙 20.4×37.4cm

小林春規 「船」
小林春規 「船」 2015年  木版・紙 26.0×36.0cm