10月12日thu―20日fri
vol.539 作家在廊日:10/12~14
小林久子の画面は大きな「動」感に満ちているが、あたかも潮の変わり目の海のように、そのなかで、すべてが一瞬、静止したような作品がある。動が動へ変化する転換点の「静」。「動」の渦中では見えなかった淵が見え、聞こえなかった音が聞こえる。その刹那の淵は、深く、音は重く、心にしみる。しみる。
小林のこれまでの実人生を、新潟で聞かせていただいたことがあった。キャビンアテンダントの時代。幾度かの結婚と離婚。相手のひとりが、あるときから、背に翼をつけて生きはじめたこと。アメリカでの画家としての出発。自活のために始めた宿泊業……。
小林の絵にそのような実人生のドラマは描かれていない。描こうともしていない。けれど実人生を生きるように、「絵を生き」てきた人の絵の前で、私の実人生が、絵を見る時間を踏み抜け、吸い寄せられていく。
(企画 大倉 宏)
小林久子 (こばやし ひさこ)
東京都生まれ。プラット大学院を卒業。N.Y.Greenwich Villageのロフトに住み、創作活動を開始。その後マンハッタン・南ソーホーを拠点に制作活動を続け、世界各地で展覧会を開催。近年は、パリ日動画廊、モスクワ美術館で作品を発表。ジョージス・バーゲスギャラリー(Soho・New York)では毎年個展開催。ロシア国立オリエンタル美術館などに作品収蔵。ニューヨーク在住。 www.hisakokobayashi.com
PHOTO上:「I want to be in the same space with you(あなたといつも一緒にいたい)」2017年 油彩/紙 46.0×61.0cm
PHOTO下: 「Maitri, Generous Compassion(限りなく優しく)」2017年 油彩/紙 61.0×76.0cm
作家の声を聞くギャラリートーク
10.12[木] 19:00〜20:00
聞き手:大倉 宏/参加料:500円/申込不要
…描くことは自分の感情の素直な表現であり、心の中にあるいろいろな感情を形作っていくプロセスでもあります。自然界あるいは自身の中にある混乱を秩序だててもくれます。この小さな絵画から大きな世界、宇宙の探求、それが私の求めるものです。私の絵は抽象画ではありますが、心の中を形に現したものなのです。
(小林久子)