「華雪書展 鳥」御礼

10月6日thu―10日mon

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 二宮家米蔵との出会いはいつだったか思い出せない。たぶん2000年代の初め。
 一世紀前、秋には天井まで米俵が積み上げられた巨大な虚空が、今は暗い空気をかかえてひっそりしている。華雪がここに「鳥」の字を書きに来たのは3年前の冬。近くの弁天潟に白鳥が帰還するのを見、米の重みの記憶の残る床に紙をひろげた。「鳥」の書をここに展示したいとの構想は、その時伝えられた。
 東日本大震災当日の朝、華雪は東京で無数の鳥たちが鳴く声を聞いたという。姿の見えない鳥たちが一斉に叫び、ささやいた忘れがたい記憶を蔵に広がる時の地層に沈め、放ちたいという。新潟絵屋が認定NPOに認定されたのを記念する展示として、壮大な展示を「寄付」によって実現しようと構想が動き出した。認定NPOへの寄付への税制優遇を実感してもらう機会にしたいという意図もこめて。
 会期は5日間。久しく使われなかった床をまる一日掃除し、庭の草を刈り、果樹園の脚立で7、8メートルはあろうという天梁から「鳥」たちを吊り、照明が仕込まれたとき、書の鳥が文字から抜け出した。境壁で区切られる3つの空間にはばたきが、さえずりが舞いおり、とびたち、空にとどまった。違う位置と視界とで生きる存在が、人間の時空とまぎれもなくつながっていることを伝える、不思議な場があらわれた。
 最終日の夕刻、前晩スイスから戻った堀川久子が踊った。華雪が床に広げた紙に字を書くことから始まり、堀川は「鳥」とともに鳥となり、鳥の横断する時空や記憶の層を切りさき、はなち、鎮めるように3つの部屋を踊り抜けた1時間。50人を超える観客が息をのむようにその時を共有した。
 うすれていく記憶を、新しい時間に呼び返し、現在に向かって創造すること。展示という行為の意味の深さを、改めて実感させられた催しだった。
 華雪さん堀川さん、企画を支えて下さった方々に深く感謝申し上げます。
(大倉宏)

寄付がつくる展覧会に、個人約44人、4法人からご賛同いただき、18.5万円の寄附をお寄せいただきました。
※2016.10.25現在
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PHOTO: 風間忠雄