華雪 書展「由」

10月2日fri―10日sat

vol.474

 「二年前に南相馬に行って、そこで、旅館の宴会場にそのまま残されていた黴びたみかんを見た」華雪は、今回の書展の字を「由」としたいと言ってきた。
 由は不思議な字だ。自由とか、宙とか、抽象の抽にも「由」が入っている。「果実が熟し、中身が油化して空洞になった様」とのこと。最初に送られてきた2点の由のひとつは黒々して、ひとつはこすり消されかけていた。動かないもの、動けないものが自分に語り、叫び、内響する声の気配がしみだしているような気が見ているとする。
 震災から4年半。かつて人が住んでいた土地から人が消え、人でないものだけが残された場所ができた。人が置いた宴会場のみかんは、みかんの形の黴となり、その形をみかんと見る人の不在の世界に、立ち続けている。(企画 大倉 宏)

華雪(かせつ)
1975年京都府生まれ。新潟では2004年以来、ほぼ毎年展示を行い、近年には13年「人とひと」(室礼/岩室温泉)、「動/物」(新潟絵屋)、14年「家を巡る」(新潟絵屋)などつながりが深い。刊行物に『石の遊び』(平凡社)、『書の棲処』(赤々舎)、『ATO 跡』(between the books)など。『コレクション 戦争×文学』(集英社)、『石原慎太郎の文学』(文藝春秋)、『木の戦い』 (詩:タリエシン/エクリ)をはじめ書籍の題字も多数手がける。「ただようまなびや 文学の学校」、〈字を書く〉ことを軸としたワークショップを各地で行い、華道家・舞踏家・詩人らとのコラボレーションも多い。水と土の芸術祭2012出品。東京都在住。http://www.kasetsu.info

関連イベント
■ 10/4(日)15:00〜 堀川久子独舞 華雪書展会場にて
1,000円/定員20名/要予約・メールまたはTel.Fax等で新潟絵屋へ

PHOTO: 2015年 墨・紙 26.0×20.0cm

西村陽一郎写真展「光の詩(うた)」

8月22日sat―30日sun

vol.470

フォトグラフ(Photograph)には、「光の描くもの」という意味がある。この原初的な意味合いに最も近い技法がフォトグラムであろう。写真機を使わないで、印画紙上に直接ものを置き、光を当てて画像を得る。簡単に単純な解説はできるが、実は作家自身、最後まで画像がどう浮かび上がるのか、わからない。試行錯誤を楽しみながら西村陽一郎は光の芸術の気まぐれを、そこに流れる詩(うた)を、叙事詩のようにつむぎあげて作品化してきた。月日をかけて工夫を凝らして織り上げられた極上のタピストリーのように、彼の芸術は壁面から光彩を放ち、妖しい魅力のとりことする。ターゲットはあなただ。「単純なものほど偉大である。」という芸術に関する格言をまつまでもなく、この作家の世界は写真芸術の異彩な宝なのだ。未見の美を創造し、すくいあげて、われわれの眼前に定着した。今、その空間から、滲み出すユートピアへの情熱を手にしてみる愉悦……。(企画 石井仁志)

PROFILE
西村陽一郎(にしむら よういちろう)
1967年東京都生まれ。美学校で写真を学び、撮影助手を経て1990年に独立。モノクロのフォトグラムを中心に、植物や水、昆虫、ヌードなどをモチーフとした作品を発表している。個展、グループ展多数。美学校、東京造形大学非常勤講師。「期待される若手写真家20人展」「ヤング・ポートフォリオ展」「’99 EPSON Color Imaging CONTEST」「PHILIP MORRIS ART AWARD 2000」「TPCCチャレンジ」「2003京展」などに入選。神奈川県逗子市在住。

PHOTO:「ホタルイカ」2008年 デジタルプリント 10.2×12.7cm


関連イベント

ギャラリートーク
8月22日 sat 18:30〜
西村陽一郎×石井仁志×大倉 宏
会場:新潟絵屋展示室 500円/申込不要

西村陽一郎WS「サイアノタイプワークショップ」
8月23日 sun 10:00〜11:45
会場:新潟市美術館/2F実習室
(新潟市中央区西大畑町5191-9)

西村陽一郎さんを講師に、古典的な印画法で表現される写真制作を体験します。このワークショップでは、紫外線で露光するため、暗室は使いません。印画紙に直接ものを置き、光と影を焼き付け、ブルー(シアン)一色で表現します。
2,500円(材料費込み)/定員20名(要申込。新潟絵屋へメールまたは電話で)/小学生以上
・新潟市こども創造センターでの、こどもだけを対象としたワークショップもございます ▶ 8月27日 thu

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Information
8月27日thu 10:00〜12:00

新潟市こども創造センター 光で描こう! 日光写真

西村陽一郎さんを講師に、光が当たると色が変わる紙に、お日さまの光を当てて作品を作ります。新潟市こども創造センターでの、こどもだけを対象としたワークショップです。

  • 対象:小学生以上(2年生以下保護者同伴)/15人
  • 参加料:500円
  • 申込先:新潟市こども創造センター tel. 025-281-3715
  • 協力:新潟絵屋

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しんぞう展

7月2日thu―10日fri

vol.466

 今回出品の墨絵連作「神の犬」のいわく言いがたい魅力はなんだろう。
 犬の表情もそうだが、墨の広がり、線もいい。近作アクリル画の名付けようのない色がごっちゃり混ざった溶岩にも引かれる。画家が絵の前で語るエピソードにも驚かされるけれど。
 しんぞうの絵はしばしば制御しがたい感情やとりとめのない思考から始まるらしい。親に愛されない悲しみに一年川原で泣き続けたことのある画家は、今も感情の奔流を生きているようだ。一見汚く見える色は、その表出のようでもあるが、それだけでは第三者の目は揺らせまい。
 表出が表現に、汚いが美しいに変わる一線があり、そこに立つ犬が越境者を威嚇する。その番犬が「神の犬」なのかも。(企画 大倉 宏)

PROFILE
しんぞう 1974年横浜市生まれ。武蔵野美術大学油絵科卒業。個展は、2007・08・09・11・12年新宿眼科画廊(東京)、09・10・11・12・13・14年DAMギャラリー(韓国)、12年砂丘館「あなたの心の裏の河」(新潟市)、13・14年新潟絵屋など。そのほか09年「大地の芸術祭」に出品。芸術道場GP(グランプリ)銀賞、第29回損保ジャパン美術財団選抜奨励展入選、第44回神奈川美術展入選など受賞。装画に「臨床の詩学」(春日武彦・著/医学書院)がある。新潟市在住。
http://www.sinzow.com/

PHOTO:「神の犬」2014年 墨/和紙 16.0×20.0cm

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