梅田恭子展 –かごのなかから–

3月22日wed―30日thu

vol.520

 去年、砂丘館で展示した2003年の銅版画集『ツブノヒトツヒトツ』の制作時に、梅田恭子は「これはひそやかな抵抗です」と語ったという。そのことを思い出しながら、今年の個展に展示される絵を見ている。ツブは季刊誌『版画芸術』のために制作された100点以上の銅版画のこと、ヒトツヒトツはそれが手渡される世界、国家、集団、家族に生きるひとりひとりの、個、つまり『私』のことだった。なぜその、一人ひとりに、ツブは向けられなくてはならなかったのか。
 今回は、これまでの絵と一見、一転したかのような人の顔や手、葉や実や枝を描いた。素朴な素描のようだが、しみてくる絵だ。人がいい。そして手が。たったひとりの場所で、じかに触れてくるものとともに、いま生きている存在のヒトツヒトツを、確かめるように、画家は見つめている。
(大倉 宏)

梅田恭子

梅田恭子 (うめだ きょうこ)
1971年東京都生まれ。多摩美術大学美術学部デザイン科グラフィックデザイン専攻卒業、96年同大学大学院美術研究科デザイン専攻修了。94年から個展を中心に、東京、新潟、名古屋、大阪、神戸、宇部などで作品展を開催。新潟絵屋では2010年3月、12年3月、14年11月、砂丘館で16年2月(北書店同時期)に個展開催。刊行物に銅版画集 『ツブノヒトツヒトツ』(言水制作室)がある。http://umedakyoko.com/wp

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PHOTO(上): 「午睡 - leaf 3」
PHOTO(下): 「レモンを持つ右手」 2016年 色鉛筆・油彩/紙 38.5×28.5cm

緑川俊一展

2月2日[木]―12日[日]

vol.516 

 長くパソコンに向かって、入浴し、瞑目すると、湯の熱とともに、意識が置き忘れていた体が、緑川俊一の絵の格好で戻ってきた。目で見るのではない<体が体で感じる体>を、からだと呼ぶとするなら、緑川の人はそのからだを描いている。
 絵屋での緑川展は4度目だが、いつも敏感に反応してくれる観手が、ダンサーの堀川久子だ。その堀川は1980~90年代に山梨県白州町で、身体気象農場という、農業をしながら体や踊りを考える活動を田中泯らとしていた。堀川の独舞は視覚的にも美しいが、それだけでなく、場の空気を、見る者の内部のからだを揺らすきわだった力をもつ。
 緑川の顔や人もまた、人間存在の「身体気象」を、雨や雲や空や朝や日を、ときに劇的にまた微妙に、とどまることなくうつろう〈からだ〉の、ひとつとして同じもののない風景を、情景を、描いている。いつも新しく、瑞々しく、独特で、見飽きることがない。
 今回はその緑川展の会場で、堀川久子が踊る。どのような気象が、風が、光が、絵屋を通過するだろう。(企画 大倉 宏)

緑川俊一(みどりかわ しゅんいち)
1947年東京都生まれ。67年絵を始める。71年小笠原諸島の父島、母島、72年小樽、77年東京、88~91年ニューヨークに住む。マエダ画廊(名古屋)、現代画廊、ギャラリー川船、空想・ガレリア、ギャラリー汲美、羽黒洞木村東介(東京)、たけうち画廊(新潟)などで個展。ほかグループ展多数。新潟絵屋では2001・09年個展、2013年に吉田淳治との素描2人展を開催。千葉県船橋市在住。

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PHOTO(上): 「かお」制作年不明

緑川俊一作品
PHOTO(下): 「ひと」2016年 ダーマトグラフ/紙 42.1×29.8cm

関連イベント 堀川久子踊ル 緑川俊一展の新潟絵屋にて
2.10[金] 19:00~ 参加料1,000円/要申込。新潟絵屋へ

*新潟絵屋から徒歩10分の新潟市美術館の「木村希八さんの贈り物」展(1/28~3/5)でも、刷り師、コレクター、画家であった木村希八のコレクションの1点として、緑川俊一の作品が出品されています。あわせてご覧下さい。

佐佐木 實 展 イ充つ㊁

2月18日[土]―28日[火]

vol.517 作家在廊予定日: 2/18.19.26~28

 将棋や囲碁の専門棋士の頭は、ひとつのマスに、交点に置かれたひとつの駒や石に、ゲームの無数の進行の可能性を読み取り、悩み、興奮し、喜び、絶望したりするという。
佐佐木實の「カタカナ一文字」による近年の表現も、たった一音、一文字に蝟集し流れ込む意味や感情や人生を透視し、棋士と対手が脳内で可能性を追い、戦うように、佐佐木自らが私たちと向き合い、生きようとする試みである。
 盛岡で発表した「ヒ象る」では、人に許された言語が「ヒ」だけになったらというコトバの拘束性を強く意識したものだったが、新潟絵屋での前回と今回の発表「イ充つ」では、その限定になぜか佐佐木自身が弾んで、ダンスをしているようにさえ見えるのが面白い。
 ヒとイの違いなのか、佐佐木自身の制作姿勢の変化なのかはわからないけれど、今回の新作で「イ」がついに物質化、物体化しだしたのを見ると、言葉・文字という抽象的なもの(と考えてしまいがちなもの)が、じつはひどく肉感的な、ナマモノなのだということをつきつけられる。こんなふうに言葉と向かい合わせてくれる鏡が在る。
大げさかも知れないが、奇跡は、きっとこういうことを言うのだ。(企画 大倉 宏)

佐佐木實 (ささき みのる)
盛岡市生まれ。東京藝術大学大学院美術研究科修士課程藝術学専攻修了(美学)。フランス国立社会科学高等研究院博士課程言語学専攻修了。博士(言語学)。二十代半ばに渡欧。パリでは言語学を学び、制作と学問の双方から言葉/文字を記す行為に向かいあった。2006年帰国。11年岩手県美術選奨受賞。近年の個展は11年盛久ギャラリー(盛岡)、新潟絵屋、北書店画廊、12年Cyg art gallery「書書葉葉」(盛岡)、13年OGU MAG「佐佐木實の書 -型ハメ 型モレ-」(東京)、14年新潟絵屋など。14年Gallery 彩園子(盛岡)での「明日の仕事、12人」のひとりに選ばれ『ヒ象る』で参加。

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PHOTO(上): 「イ」2016年 鉛筆・色鉛筆・インク/紙 28.1 x 17.1 cm

イ充つ

佐佐木實

PHOTO(下): 「イ」2016年 鉛筆・色鉛筆・グワッシュ・インク/紙 26.8×11.4 cm

関連イベント
ギャラリートーク 佐佐木實×大倉宏
2.18[土] 19:00~20:00 (21:00まで開廊)参加料500円/申込不要

渡辺富栄 日本画展

1月22日sun―30日mon

vol.515 作家在廊予定日: 1/25・30(ともに午後)

 渡辺さんは市井の人々の生態を描き続けている。その眼差しは家族に、自身が暮らす地域の人々や働く人たち、そして教員時代の教え子たちに注がれてきた。彼らが生きる日常のステージが実に淡々と描かれ、衒いも外連もない仕切り派風の明快な 「生活画」に仕上げている。みんな自分の過ごす時代や生活を自然に受け入れて生きているのだろう。そろって健やかで穏やかな姿や表情が印象深い。こうした生活者に寄せる渡辺さんの共感の眼差しはいつも清々しく見るたびに心を温めてくれた。
 そんな渡辺さんがここ20年近く新潟市万代島の造船所で船を造る人々をテーマに発表を続けている。労働の現場の人の姿をどう絵にするか。今回の個展ではそのうちの何点かを紹介してもらうことにした。
(企画 小見秀男)

渡辺富栄 (わたなべ とみえい)
 
1948年新潟市生まれ。1972年新潟大学教育学部美術科卒業。日本画家片岡球子氏に師事。75年第60回院展に初入選。以後、出品を続ける。81年第36回春の院展に初入選。以後、出品を続ける。98年 「新潟の美術’98」(新潟県民会館)、2006年 「新潟の作家100人」(県立万代島美術館)出品。2010年個展 「渡辺富栄-日本画の世界」(弥彦の丘美術館)。現在、日本美術院院友、新潟県展委員、新潟県美術家連盟副理事長。

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PHOTO(上): 「船を造る人々-陸揚げ点検-」2016年 日本画/紙 106×106cm

渡辺富栄 船を造る人々–掃海船建造・新年仕事初め–

PHOTO: 「船を造る人々–掃海船建造・新年仕事初め–」(2011)

小林春規展 −京都散見−

1月8日sun―18日wed

vol.514 作家在廊予定日: 1/8・9・14・15・18

 新潟絵屋の月々の展覧会案内である絵屋便の、表紙の絵を、去年1年間小林春規にお願いした。山の端の日の出に始まり、雪の街角、カモメ舞う海、早苗、満天の星、平野の残照、枯れ蓮と続いた木版画の光景は、初冠雪の山で終わった。春規の父の小林正四氏に一度お目にかかったことがあるが、情愛あふれる雰囲気の方で、俳句をされたというが、その子である小林春規の絵も俳句のようだと、表紙絵を見て思った。
 たとえば6月号の雨中を行くふたりのシルエットは、新潟で出会う女たちの仕草や、独特の空気感をあざやかに浮かび上がらせる。心に瞬時に生起し忘却されていく感覚が、目の糸に釣り上げられ、舟底の魚のようにピチピチ跳ね上がる。
 この12点に、小林が若き日を過ごした京都をモチーフにした新作(一部旧作)を加えて、新潟絵屋の新春の壁を飾る。(企画 大倉 宏)

小林春規 (こばやし はるき)
1953年新潟県水原町生まれ。幼年時より木版画を始める。18才で初の個展後、京都の表具師の内弟子となり、表具の仕事を続けながら版画制作を続ける。90年新潟県笹神村(現阿賀野市)に転居。70年より日本アンデパンダン展、平和美術展に出品。個展多数。挿絵は、残熊てるよの詩集 『不安と未来と』、個人伝記 『暗闇の燈火』など。

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PHOTO(上):「雨」(2016)

小林春規 大楠・青楠院

「大楠・青蓮院」2016年 木版画/紙 20.5×13.5cm

七里知子展

12月12日mon―20日tue vol.513

作家在廊予定日: 12/12・17・18・19・20
◆ 七里知子展 ギャラリートーク 12.17[土] 19:00~20:00
21:00までオープンします。

 七里知子の絵で考えた。鏡のような水面と鏡は、どう違うのだろう。
先日新潟の海が本当に凪いで鏡のようになっていた。ボリビアのウユニ塩湖では雨期の雨が凍ると大地が鏡になり、足下の空になってしまうという。七里の青い絵をはじめ空だと思っていたけれど、水と聞き、その青は水鏡に写った空の色だと知った。ガラスでなく、氷でなく、水だということは、その面が時には新潟の海のごとくでこぼこになり、崩れることもあるということだ。
水は今かりそめに鏡になり、空を、光を映す。絵に映るかすかな揺らぎが水の違う時を教える。うごめき、あれさわぎ、揺れつづけるものの一瞬の静に、遠いものが宿る。
(企画 大倉宏)

七里知子(しちり ともこ)
京都造形芸術大学美術工芸学科油画コース卒。同大学院芸術表現専攻修士課程修了。06・07・09・11~14年Gallery MIYASHITA(札幌)、14年恵文社一乗寺店(京都)、新潟絵屋、北書店、15年SIO(大阪)、16年Kit(京都)、ちせ(京都)、ポポタム(東京)、アートスペース虹(京都)にて個展。油絵の傍ら銅版画制作を行う。銅版画から制作した手製豆本は2種、『Yukar』『密やかな対話』がある。

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PHOTO: 「Like all the same 17」2016年 油彩・綿布 22.0×27.5cm

「いい」と 「わからない」とは、画廊でよく耳にする言葉。
12月は、ふたつの展覧会を企画した大倉が聞き手となり、ふたりの作家、八木なぎさ、七里知子にお話を伺います。
ともに聞き手: 大倉宏/500円/申込不要